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小児の維持輸液と小児神経領域での注意

小児の維持輸液と小児神経領域での注意

この記事を作成した日:2025年8月28日
記事内容の最終更新日:2025年8月28日

<この記事のまとめ>

・小児の維持液は,リンゲル液ないしは2号液を,4-2-1ルールの8-9割で
・リンゲル液の場合は,低K血症に注意する
・呼吸器の装着時間の延長や,基礎疾患による心機能低下を考慮する

輸液量については,初期研修・後期研修でさんざん勉強しているものと思います.

一応のまとめと,小児神経疾患を治療する上で考慮すべき点をまとめてみました.

目次

初期輸液

このページのメインではないので簡潔に.

脱水などの時の初期輸液は,細胞外液を10~20 ml/kg程度を,状況に応じてボーラス投与,ないしは1~2時間かけて投与します.

生理食塩水の大量投与では高Cl性のアシドーシスが出てくるため注意が必要です.

小児における維持輸液の種類と量

小児に適した維持輸液の種類|リンゲル液ないしは2号液を使用する

2000年代前半までの小児の輸液は,”4-2-1ルールでの3号液” が一般的でした.

しかし現在,医原性低Na血症のリスクが高いため,3号液での維持輸液は推奨されておらず,NICEのガイドライン(2015)でもAAPのガイドラインでも,糖と電解質を調整した等張液が推奨されています.

また,小児の急性疾患(比較的軽症)に対する維持輸液をリンゲル液とT2相当の中等度低張液を比較した報告では,リンゲル液ではK < 3.0mEq/Lの低K血症(19%)と高Na血症(1.3%)を来しやすく,中等度低張液での重度の低Na血症の発症率は上昇しなかった(重度低Na血症はともに0, 軽度132-135 mEq/L程度の低Na血症は 2.3% vs 3.6%で有意差なし)という報告があります.

低K血症(<3.5 mEq/L)の重症度分類

– 軽度(3.0 〜 3.5mEq/L)
– 中等度(2.5 〜3.0mEq/L)
– 重度(< 2.5mEq/L)

3.0 mEq/Lを下回るような中等症の低K血症から,

経験上,リンゲル液で1〜2日の維持輸液を行いながら食事・経腸栄養を併用して減量する場合では低K血症が生じることはあまりないですが,3日以上の絶食の場合にはそこそこの頻度で低K血症を生じてくるので,時々採血をしながらKの補充を行いましょう.

2号液を使用する場合には, ブドウ糖濃度が3.2%と低めであることに留意してください.2号液の利点としてPが入っていることもあります.

上の文献でも2号液での維持で高K血症を発症していないようなので,長期の輸液が考えられる場合はリンゲル液での維持液では初めから少しKを追加しておくのもよいのかもしれません.

リンゲル液には 4 mEq/L程度のKが添加されていますが,低K血症の進行度合いによってKを追加します.

輸液製剤Na (mEq/L)K (mEq/L)Cl (mEq/L)HCO₃⁻ (mEq/L)乳酸(mEq/L)酢酸(mEq/L)Ca (mEq/L)P (mmol/L)Glucose (%)
生理食塩水 (0.9% NaCl)154154
乳酸リンゲル液(ソルラクト®)1304109283
酢酸リンゲル液(ヴィーンF®)1304109273
酢酸リンゲル+ブドウ糖(ヴィーンD®)13041092735
1号液(ソリタ-T1®)9070202.6
2号液(ソリタ-T2®)84206620103.2
3号液(ソリタ-T3®)352035204.3

末梢点滴ルートからのK補充は静脈炎をきたす可能性があり20 mEq/Lまでにしたいところです.一応,重度の低K血症であればKCl 60 mEq/Lで0.125 mEq/kg/hr までは末梢点滴から投与可能ではあるようですが,高濃度のKは点滴漏れを来した場合に容易に皮膚の壊死をおこすため,40 mEq/Lを超える濃度は避けましょう

ブドウ糖付加リンゲル液ではもともと生食比で2倍の浸透圧があるため,より注意が必要です.

500mlのリンゲル液に,20 mEq(20ml)のKClを入れるとだいたい 44 mEq/Lになります.2号液の場合は10 mEq(10ml)を追加すると 40 mEq/Lになり,このあたりが末梢から投与できる最大濃度です.

リンゲル液で維持輸液をしている際に発症した低K血症に対しての治療のさじ加減として

3.0~3.5 mEq/Lの軽度の低K血症:リンゲル液 500ml に 5mEq(KCl 5ml)を入れて 14mEq/L

3.0 mEq/Lを切ってきているものの心電図異常は乏しい場合:10 mEq(KCL 10ml)入れて24 mEq/L

3.0 mEq/Lを切って軽度の症状を呈する場合:15 mEq(KCl 15ml)を入れて34 mEq/L

くらいで調整して,維持液の速度で投与します.

ちなみに,維持液でK 1 mEq/kg/日を補充している低K血症の乳幼児に,2時間で1 mEq/kgないし0.5mEq/kgのKClを点滴すると,4時間以内に血中K値が0.8 mEq/Lないし0.5mEq/L上昇するらしいので,補充量のひとつの目安になると思います.

他の要素も絡むので正しい計算ではないですが,なんちゃって理論的には,10 kg換算で,4-2-1ルールの8割の維持量で投与する場合,14 mEq/Lの濃度で維持液をすると12 mEq/日程度の投与量になり,0.2 mEq/L/日くらい改善する計算になります.どんぶり勘定ではありますが,体感上,1〜2日で3台後半くらいになっている感じです.

はっきりわかるような心電図異常がある場合にはICUなどモニタリングを強化した方がよく,内服も併用したり,場合によりCVやPICCを確保してより高濃度のK投与を検討します.ただし,どれだけ急いでも 0.5 mEq/kg/hrを超える速度で点滴をしてはいけません

小児での維持輸液の輸液速度|4-2-1よりは少し絞り目に

肺炎などの治療の際に,一般的に知られいる4-2-1のルールで輸液を行うと,かなり浮腫んできてしまうことを経験します.

個人的にはこのルールより1-2割くらい減量した量を維持量としますが,他の施設でもこの所感は同じようです.

SIADHを考慮して輸液量を減らす場合にどの程度まで減らしてよいか,という議論はされていますが適切な量は現在のところ定まっていはいないようです.4-2-1ルールの半分まで減量すると2割で脱水が起きるようでもあります.

維持液の流速の4-2-1 ルール

10 kgまで:体重 × 4 ml/hr
10~20 kg;(体重 × 2 + 40) ml/hr
30 kg~ :(体重 × 1 + 60) ml/hr

最大 100ml/hr(2,400 ml/日)

輸液量の評価

結局のところ,適切な輸液量は個人もあり,原疾患や状況でもかわるので,尿量・バランス・採血結果を総合的に判断していくほかありません.

輸液を行う場合には面倒ですが尿測を行って,In-Outバランスの確認をしましょう.特に重症心身障害児では採血可能な血管が限られることもあり,毎日の採血は難しいかもしれませんが,2~3日に1度くらいは評価したいところです.

小児疾患領域に関連した輸液量の注意

重症心身障害児に関する注意|呼吸器装着時には輸液を絞り目に

重症心身障碍児では,普段の栄養管理における水分量を考慮する必要があります.体格のわりに多かったり,少なかったりの個人差がかなり大きいこともあります.

また,普段は呼吸器の装着時間が短い方で,肺炎などで入院して呼吸器を持続装着する場合には,呼吸器の加湿によって不感蒸泄量が低下するので,普段の量での輸液では水分量が過多になりやすいです.

全体に絞り目が安心です.

筋疾患での注意|過剰輸液と低K血症に気を付ける

筋疾患によりまちまちですが,心筋症も合併することが多いです.

事前に過去のレントゲン写真や心エコー評価を確認し,心拡大やEF低下がある場合には輸液を絞り気味(維持量の8割くらい)にして,日々尿量と採血データを確認しながら調整します.

浮腫が出てくるようであれば,ラシックスなどの利尿薬を適宜使用しましょう.0.5~1 mg/kg/回程度で使用しますが,ラシックス単独で使用する場合はK値の低下に注意します.

もともと心筋症があると低K血症で不整脈が誘発される可能性が高くなるため,初めからリンゲル液にKを補充して置いたり,経過によりNa負荷も考慮して2号液への切り替えを検討することもあります.

参考文献

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