小児の髄液検査/腰椎穿刺の手技・注意と穿刺のコツ
この記事を作成した日:2025年8月13日
記事内容の最終更新日:2025年8月31日
はじめに
腰椎穿刺・髄液検査は,髄膜炎を疑ったとき,脳炎・脳症の鑑別,てんかんの原疾患検索,代謝疾患や瀬川病などの不随意運動症の診断など,小児神経診療の中で様々な場面で必要な検査です.他にも脳炎の際のデキサメサゾン髄注やSMAに対するスピンラザ®投与などの場面でもスムーズに行いたい手技です.
一方で,アメリカの小児科レジデントの最終学年の腰椎穿刺の成功率は半分くらいという報告もあるくらい,手技として習熟するのが大変なものです.経験を積んでこなれてしまえば鎮静含めて15~20分以内に終わってしまうのですが…
小児では成人と比べて解剖学的に異なる部分もあり,実際にレジデント期間中に腰椎穿刺を経験することもそれほど多くないので,理論武装した上で実施して経験を積んでいくことが大切です.
この記事では,腰椎穿刺・髄液検査を行うにあたってのコツや心構えをできるだけ丁寧に・詳細に記載して,事前の準備から看護師への指示出しまで含めてすべて網羅できるようにまとめています.もちろん,成人の医師や看護師さんがみても参考になるように工夫しました.
エビデンスのあるもの以外にも,あまり教科書には書けないような私自身の所感みたいなものをできるだけ多く記載しました(髄液検査の結果解釈については別途まとめてあります).
一部個人的な意見もありますが,ひと通り目を通して頭に入れてもらえるだけで,腰椎穿刺・髄液検査の成功率がぐっと上がるはずです.自身のPracticeに(あるいは後進の指導に)役立てていただければと思います.
腰椎穿刺・髄液検査の基礎知識
脳脊髄液の生理学的知識(脳脊髄液の産生と循環)
脳脊髄液(髄液)の 70~90%は脈絡叢で産生され,残りは脳実質の間質液が脳室上衣を通過して脳室へ,もしくは軟膜を通過してくも膜下腔へ移動することで産生されます.髄液の産生は脳血流や交感神経系等に影響されますが,通常,産生量と吸収量は釣り合っています.
髄液の総量は成人で150ml, 新生児(満期)で50ml程度で,髄液の産生量は成人で500ml/日であり,成人では1日に3~4回ほど入れ替わる計算になり,通常検査で抜いた分の髄液は,1時間程度の仰臥位安静の間に回復する計算になると思われます.新生児の髄液産生量は25 ml/日とする文献もあるので,年少児では注意が必要です.
Swaiman’s Pediatric Neurology. 7th ed
BMJ 2015
穿刺部位周辺の解剖学的知識
脊髄円錐の位置と穿刺部位の決定
脊髄の下端である脊髄円錐は,ほとんどの被験者で L1-L2 椎間腔にあり,脊柱変形のないほぼすべての被験者で L3 椎体より上にあるとされています.ただ,新生児の報告ではL2以下まで脊髄がある症例が36%あったというものもあり,注意が必要です.くも膜下腔はS2レベルまであるため,L3/4, L4/5の間は比較的安全に穿刺が可能です.L5/S1ではくも膜下腔も狭くなってきます.

いわゆるヤコビー線(上腸骨稜を結んだ線)がL4の位置にあるため,通常これより下を穿刺するのが安全です.

このヤコビー線をランドマークとした穿刺について,麻酔科のレジデントは3割以上が1椎間以上うえの椎間を穿刺してしまっていた(経験を積んだFellowではおおむね正確だった)という報告もありますので,自身が指導をする側に回る場合,特に経験が少ないレジデントの指導をする場合には,体位を取った後に一緒に穿刺する場所は確認した方がよさそうです.
また,新生児でのヤコビー線での穿刺部位決定では,36%で思っていたよりも高い椎間を穿刺していたという報告や,乳児で穿刺部位をエコーで確認したところ脊髄円錐がある場所であったという報告もあります.
dimpleがあるような場合ではエコーを確認したりは必要(エコーの確認のやり方や画像はこのレビュー文献に)でしょう.
椎体と断面の解剖
腰椎は,前面は椎体と椎間板が縦に並び,後面は上関節突起と下関節突起が上下の椎体同士でかみ合っています.また,側方に横突起が,後方に棘突起が飛び出していて,筋肉や靭帯が付着しています.
この上下の棘突起の間で左右にある上下関節突起の間にある ”窓” を穿刺することで,硬膜内までアプローチすることになります.

背中を丸めるのは,腰椎の棘突起間の距離を最大化して穿刺のターゲットを大きくするためです.

※イメージです
初期研修の際に成人の髄液検査を行う場合,頭側方向に斜めに刺入するとよい,という指導をよく受けます.これは椎体の棘突起が尾側方向に斜めに出ているため,それに沿わせることで骨の隙間をぬって髄腔内に到達しやすくするための工夫です.
超音波検査を用いた研究では,穿刺の姿勢をとった時の皮膚に対する棘突起の平均角度は乳児で50°, 1~12歳の小児で60°だったという報告があります.

ただ,小児の椎体は成人に比べて棘突起が短いためか,経験上あまり角度をつける必要はなく,棘突起の下縁からまっすぐに刺入すれば大丈夫です.ただし,小児の髄腔は成人よりも幅も奥行きも狭いので,”左右にぶれずにまっすぐ刺す” のが成人よりも大切になります.
また,腰椎穿刺をうまく成功させるには針が進んでいく”層”の理解が必要です.
矢状断面を見てみると,穿刺針は
- 表皮
- 真皮・皮下組織
- 棘上靭帯
- 棘間靭帯
- 黄色靭帯
- 硬膜外腔
- 硬膜
の順番に層を通過していきます.
この中で,表皮を穿刺したところが一番痛いのでよく動きます.

棘上靭帯・棘間靭帯を通過しているときには ”ゴムを刺しているような” 独特の手ごたえがあります.この手ごたえの感じを意識して経験を積むと腰椎穿刺の成功率が上がる気がします.
実際の穿刺方法・穿刺の時の留意点については,後述しています.
腰椎穿刺の適応と禁忌
適応
- 髄膜炎・脳炎の診断
- Guillain-Barre症候群やMS・ADEMなど,脱髄疾患・自己免疫疾患の検索
- Glut1欠損症の診断(髄液/血糖比)
- ミトコンドリア呼吸鎖異常など代謝疾患の検索
- 瀬川病などの診断のための代謝物質・神経伝達物質の測定
- 白血病の中枢神経浸潤の診断
- 特発性頭蓋内圧亢進症の診断,および症状緩和
- 治療薬の投与
腰椎穿刺の禁忌と注意事項(アスピリンは大丈夫)
以下のような疾患では腰椎穿刺は禁忌になります.
- 穿刺部位の感染症(蜂窩織炎など)
- 出血傾向・凝固異常
- INR > 1.5,フィブリノゲン < 200 mg/dL
- 血小板 4万未満,など
- 抗凝固薬(原則中止してヘパリン化),アスピリンは可
- ワーファリン
- 5日前に中止し4日前からヘパリン化.INR<1.4が目安,ビタミンKで拮抗できる.
- 術後翌日再開
- ヘパリン化
- 低分子量ヘパリン: 24 時間前中止,6~9 時間後再開
- 未分画ヘパリン:4 時間,4~6 時間後再開
- ワーファリン
- 脳ヘルニアのリスクがある場合
- 脊髄の解剖学的異常(低位脊髄など)
- 全身状態不良(ショック,呼吸不全など)
すくなくとも,アスピリンに関しては,EU・アメリカ・イギリスのガイドラインとも内服中であっても腰椎穿刺に差し支えないことになっています.
ただし,しっかりと不動化して,穿刺に伴う外傷性出血ができるだけ起こらないように注意しましょう.
起こりうる合併症
- 脳ヘルニア
- 感染症
- 穿刺部周囲出血と圧迫
- 一過性の神経症状
- 背部痛
- 腰椎穿刺後頭痛
腰椎穿刺後の頭痛は,穿刺後に穿刺部から漏れ出る髄液が髄液の産生量を超えることで生じると考えられています.頭蓋内圧の低下により静脈拡張を生じる結果,硬膜の神経を通じて頭痛が生じるという病態です.
起き上がると増悪する頭痛が1週間ほど持続します.
穿刺後の頭痛を防ぐためには,以下の方法があります.
- 細い針を使用する
- 穿刺する時に針の切れ込みが上向き(つまり針先の尖っている部分が硬膜の頭尾へ走る繊維に沿った方向)で行う
- 針を抜く前に内筒をしっかりと再挿入する
- 針先が鈍い針を使う
などの方法があります.
②はかなり有効で,頭痛の発生率が大きく下がります(7.95 vs 19.3%).硬膜の繊維が頭尾方向に走っているので,そこに平行に差し込むことで穴がふさがりやすくなるためです.針の切れ込みが横向きで穿刺すると硬膜の繊維が断裂して針の抜去後に髄液が漏れやすくなります.④も同じく硬膜の損傷を小さくするためのものですが,日本では採用されていません.
③も有効で,頭痛の発生率が5% vs 16%で大きく変わります.内筒を入れないと針穴にくも膜の繊維がくっついてきて硬膜の穴に挟まってしまうために髄液が漏れやすくなることが考えられています.

事前検査と必要な道具
事前検査
- dimpleの確認(低位脊髄など)
- 頭部画像:頭蓋内圧亢進の可能性がある場合
- 血小板・凝固検査:出血症状,凝固異常が疑われる場合
必要物品

穿刺針の選択|種類と長さ・太さ
特に新生児では24Gの注射針を用いていることもあるかもしれませんが,内筒(スタイレット)の付いていない穿刺針は皮下細胞が髄液空間に迷入してしまって,将来的に脊髄類表皮腫瘍が生じるリスクがあるため避けるべきとされています.しっかりと内筒があるスパイラル針を使いましょう.
海外では穿刺後頭痛の予防のため.先端がとがっていない非外傷性穿刺針が用いられることもあるようですが,日本では一般的ではありません.
穿刺針の長さは50mm, 70mmなどがありますが,長すぎると安定しにくいため使いにくく,逆に短すぎると硬膜内まで届かないことになってしまいす.あらかじめ下記項目の穿刺の深さの目安を参考に穿刺に必要な深さを予想して,予測される深さが4cmを超える場合で特に皮下脂肪が厚い場合には70mmのものを用意しておくといいでしょう.
針の太さは通常の検査では23~24Gで十分です.細い方が穿刺後の頭痛が起こりにくいのですが,髄液の採取に時間がかかるため,途中で鎮静薬を追加する必要が出てきたりします.私は鎮静薬を使うことが多いので,鎮静時間短縮のため通常23Gを使います.
また,薬剤を注入する場合には太めの方が注入する際の抵抗感がわかりやすいです.
その他の必要物品
その他の必要物品を表にまとめておきます.
処置の途中で物品の不足に気づくと焦りますし,場合により鎮静の追加など患者さんに不利益が生じることにもなりかねません.事前に物品が足りるか,特に特殊検査をする場合には必要なスピッツ(除蛋白など)や冷却用の氷・遮光用のアルミホイルなどが足りているか,事前にチェックをして下さい.
院内のルールとして処置前チェックリストなど策定しておくことで,準備漏れを防ぐことができます.
また,処置前に実際の手順をシミュレーションすることで,不足がないか確認しましょう.
- 23Gの穿刺針 50 mm or 70 mm(長さの確認をすること【穿刺の深さの目安: 20 + 0.4×体重(kg)mm】)
- 予備の穿刺針
- 滅菌ドレープ(覆布):清潔台用
- 滅菌ガーゼ
- 消毒キット×2:検査前,検査後(検査後も必要かは微妙)
- 滅菌穴あきドレープ(覆布)
- 検体スピッツ(2~3本)
- 除蛋白スピッツ(乳酸/ピルビン酸を計測する場合,滅菌でないので取り扱いに注意)
- 遮光スピッツないし遮光用のアルミホイル(神経伝達物質等の検査の場合)
- 必要に応じて氷冷用の氷,ドライアイス
- 絆創膏(サージカルバンテージ)
- 帽子(髪の毛の落下防止,処置する人・抑える人は必須)
- タオル 2~3枚(肩枕,頭枕,腰の下に敷くもの)
- 防水シーツ(穿刺部位の下の汚染予防として)
- 太めの紙テープ(覆布が垂れてこないように固定するため,おむつなどの隙間を埋めるため)
- (エコー)
- (滅菌エコーゼリー)
- (エコー用の滅菌袋ないし滅菌手袋)
鎮静・鎮痛方法と注意
検査時の鎮静と鎮静薬
腰椎穿刺,特に小児の腰椎穿刺では鎮静で患者さんを ”不動化” するのがとても大切です.
成人と比較して椎間が狭く,狙う髄液腔の幅も奥行きも狭いため,動いている中に行うと成功率が著しく低下するためです.また,特に小学校年代に近くなると力もそれなりに強くなるため,穿刺針が破損したりするリスクも高くなります.
そもそも,複数人で長時間押さえつけられた上で痛い検査をするのはトラウマものです.可能な限り鎮静・鎮痛を併用するようにしてあげてください.
鎮静に用いる薬剤としてよく用いられるのは
- ケタミン+ミダゾラム+アトロピン
- チオペンタール+局所麻酔
- (笑気麻酔)
のうち,①ないしは②のどちらかが多いのではないかと思います.以下,簡単に解説します.
【ケタミン+ミダゾラム+アトロピン】
ケタミンは鎮痛作用のある鎮静薬です.呼吸・循環抑制が起こりにくいため処置の鎮静に使いやすいですが,分泌が増加するのと幻覚・悪夢を見ることがあります.幻覚・悪夢への対応としてミダゾラムを併用することで予防(逆行性健忘)できるため,通常ケタミンとミダゾラムを併用しますが,両者ともに分泌物の増多作用があり喉頭けいれんのリスクが高くなるため,事前にアトロピンで分泌を抑制しておきます.
ケタミンは海外ではけいれん重積の頓挫薬としてしばしば使用されますが,日本だとけいれんに対して禁忌になっているので,けいれん・てんかんの既往があるとちょっと使いにくいです.他,交感神経刺激作用があり高血圧時やPRESを疑う時には使いにくい一方で,気管支拡張作用があるので喘息児でも使いやすいことと,血圧が下がりにくいので循環不安定な患者でも使いやすいという利点があります.
ただ,イチゴ状血管腫や片頭痛の予防,循環器疾患などでβ遮断薬を内服している場合にはケタミンでも血圧が低下しやすくなるので注意しましょう.
アトロピンは1アンプルあたり 0.5 mg/1ml となっていて,0.01 mg/kg(0.02 ml/kg)で使用します.投与後1~2分で効果が出てきますが,HRが上がってくるのでわかります.事前に胸がドキドキしてくることを伝えておきます.
引き続いてミダゾラム 0.1 mg/kg,1分ほど時間をあけてケタミン 1 mg/kgをゆっくり静注します.ミダゾラムはだいたい1アンプル 10 mg/2 mlとなっていて,生食8 mlと合わせて10 mg/10mlに5倍希釈して使います.ケタミンは 50mg/5mlの原液で使用しますが,麻薬扱いなので残液を捨てないように注意してください.ゴミ箱をあさらないといけなくなります.
ケタミンは使用すると眼振が出てきますが,眼振が出ていても意識が残っていることが多いです.睫毛反射がなくなればしっかりとした麻酔がかかっています.
だいたいの子で,上記初回投与量で十分に穿刺可能となります.ケタミンでは最大2 mg/kgまで使用は可能ではありますが,呼吸抑制が起こりにくいケタミンであっても,ミダゾラムと併用して2 mg/kgまで使用するとしばしば呼吸が落ちるので注意してください.
アトロピン 【1A = 0.5 mg/1ml】 原液 0.02 ml/kg(0.1 mg/kg)
ミダゾラム 【1A = 10 mg/2ml】 5倍希釈 0.1 ml/kg(0.1 mg/kg) 最大 0.5 ml/kg
ケタミン 【1A = 50 mg/5ml】 原液 0.1 ml/kg(1 mg/kg) 最大 2 mg/kg
【チオペンタール+局所麻酔】
チオペンタール(ラボナール®)はけいれん重積時やMRI鎮静などでよく使用される薬剤です.
ポルフィリン症の既往,重度の気管支喘息発作では禁忌になっています.また,血圧降下や呼吸抑制が強いので注意が必要です.
チオペンタールは鎮静効果は高いですが,鎮痛効果はありません.チオペンタールを髄液検査の鎮静に使用する場合には,事前にエムラクリーム®/エムラパッチ®を使用するか,穿刺前に局所麻酔薬を注射しましょう.
チオペンタール(ラボナール®)は500mgのバイアルに20 mlの注射用水(あるいは300 mgに12 ml)がセットになっています.溶解すると 25 mg/mlの溶液になります.これを生食で5倍に伸ばすと 5 mg/kg の濃度になります.通常の使用量が 3~5 mg/kg程度なので,5倍希釈しておくと 1 ml/kg をめやすに鎮静できるので計算に手間取らず過量投与のリスクも減らせます.
ここからは完全に個人の感想ですが,呼吸抑制を怖がって静注を少量・ゆっくりで行っていくと,「全然寝ないな~」「もうちょっと効かないと検査できないな~」とだんだんと量がかさんでいって,あるところで急に呼吸が止まって再開しなくなり,補助換気が必要になってしまうことがあります.
3~4 mg/kg程度を若干だけ速めに投与すると,入れた直後は短い呼吸休止があったり呼吸が浅くなりますがすぐに再開し,深い鎮静も得られる印象です.チオペンタールは血中から脂肪組織に速やかに拡散されるので,ある一定の閾値濃度までギュッと濃度を上げてあげるのが大事なのかな~,と思っています.
チオペンタール(ラボナール®): 3~5 mg/kg
【1V 500mg + 注射用水 20ml】→ 25 mg/ml
5倍希釈(原液 4ml + 生食 16ml)→ 5 mg/ml 最大 1 ml/kg
(【笑気麻酔】)
通常あまりやらないと思いますので,割愛します.
笑気麻酔は閉鎖空間のある場合(中耳炎など)では禁忌になるので,小児では若干使いにくいです.
鎮痛薬
ケタミンで鎮静を行う場合には鎮痛作用があり不要ですが,ケタミンが使用できない患者さんで検討します.
注射薬で行う場合,年長児では疼痛緩和の意味では1回だけの穿刺で行う場合はあまり意味がないかもしれません.自制が効かない年代の児や複数回の穿刺が必要かもしれない難しそうな児では,使用した方がいいと思います.
エムラクリーム®/エムラパッチ®などの表面に塗布できる局所麻酔薬は穿刺時の疼痛を緩和することで,穿刺時の体動を防ぐことができるためかなり役立ちます.パッチよりはクリームの方が範囲が自由に決められるので腰椎穿刺の時には使いやすく,パーミロール®などの被覆材と合わせて使用します.塗布から20~30分程度で効果が出てきます.
体位を取った時に皮膚が伸びて場所がずれてしまうことがよくあります.事前に一度体位を取った状態で塗布するか,使用総量に注意しつつ若干広めに塗布しておくのがいい場所に効かせるコツです.
鎮静の注意
リスク評価
鎮静を実際に行う前に,手術時の全身麻酔と同様に,鎮静によるリスクがないかどうか,万が一挿管が必要になった際の挿管困難のリスクがないかどうかを評価しておく必要があります.これは髄液検査に限らず,あらゆる鎮静下検査で行うべきことです.
大まかには下記項目には注意を払っておいた方がよいでしょう
| 上気道の開通性 挿管困難・換気困難のリスク | いびきや横向き寝・下向き寝を好む 扁桃肥大,巨舌 小顎,下顎後退 |
| 歯牙破損リスク | グラついている歯はあるか(特に小学生) |
| その他換気不良のリスク | 肥満,腹部膨満(高度便秘など) |
鎮静前の絶食
- 食事 6時間前まで
- 母乳 4時間前まで(ミルクは食事扱い)
- 水分 2時間前まで(透明なもの,お茶・水など.ミルクティーなどはダメ)
上記が一般的な食事制限かと思います.
以前に絶食期間が少し長くなってしまい,穿刺しても髄液が出にくなってしまった患者さんを経験したことがあります.血管内Volumeが少ないと鎮静時の血圧低下も来しやすいので,自己抜去しやすいなどの特別な事情がないのであれば,輸液をしておいた方がよいと思います.
鎮静薬投与時のコツと注意
髄液検査は検査時間はMRIに比べて短いですが,体位がきつく背中に刺激もあるので,短く深い鎮静が必要です.
直前に昼寝をしていると,鎮静薬の効きは極端に悪くなります.ともすれば検査が延期になりかねないので,この事情を含めてしっかりと保護者や看護師に伝えておいて,鎮静前2時間程度は絶対に昼寝などさせないようにしてもらうのだとても大切です.絶食でお腹がすくのも合わさってぐずって大変かもしれませんが,検査の安全のためですので協力してもらいましょう.
薬剤の効き方に関しては,事前に薬剤睡眠脳波など行っている場合には,保護者にその際の薬の効き方がどうだったかを聞いておくと参考になると思います.トリクロールシロップやエスクレ坐剤で寝にくい子には,初めから気持ち多めに薬剤を使うことを意識しています.
鎮静薬の投与後に力が抜けた後で陥没呼吸が出る場合には,肩枕を入れたり首を少し横に向けたりして気道を開通させるようにしましょう.
鎮静薬投与直後には,SpO2モニタではなく本人の呼吸の有無をしっかりとみておきましょう.私は目で見るのが苦手なので実際にお腹に手を当てて動きをみています.SpO2モニタに波形が表示されるのは10秒前後遅れます.また,残気量により呼吸休止後にSpO2が下がってくるまでにも多少時間がかかります.
眠そうにして大きなあくびやため息をした後に,ストンと呼吸を休んでしまう場合が多いです.あくび・ため息には注意しましょう.
鎮静前に事前に酸素化をしておき,呼吸が10秒を超えて止まったままならバギングの準備をしておくと焦らなく済みます.
SpO2がモニタ上下がってきていても,見た目に呼吸が再開されていればある程度のSpO2は保たれますので,バギングせず酸素投与のみで安定しないか観察できることが多いです.SpO2のモニタ表示は呼吸再開後にも上がってくるのにラグがあります.その際,気道が開通しているか(陥没呼吸がないか)には注意しておきましょう.
実際の穿刺方法に必要な知識と注意
体位の取り方
右利きは左側臥位がやりやすい
体位は座位でもいいらしいのですが,鎮静のことを考えると基本的に側臥位で行うことになると思います.
基本的に私は左側臥位で行うように指導しています.
左手で棘突起を確認しつつ,右手で穿刺針を持つときに左側臥位の方が都合がいいからです.逆に左利きなら右側臥位にするといいと思います.
穿刺部を突き出させるように,首は曲げすぎない
股関節をできるだけ曲げて,穿刺部が一番突き出るように背中を丸めた姿勢を取ります.
腰椎の棘突起の間をできるだけ開かせるためです.
この際,首をあまり強く曲げる必要はありません.

肩甲骨までの部分をしっかりと屈曲させていれば,追加で首を曲げても腰椎椎間にあまり影響はありません.さらに,首を強く屈曲させるのは気道が閉塞しがちであるとともに,本人の不快が強いため鎮静下でも体動が出たり半覚醒になってしまって不動化ができません.
首の付け根(C7, 隆椎)のあたりに手を添えて丸めると首が屈曲せずに背中だけ曲げやすいです.
介助者(抑える人)の姿勢
乳幼児の場合
膝を曲げて股関節を屈曲させるように,太ももあたりに左手,肩から首の後ろに右手を添えてぐっと体を丸めるように力を入れます.

新生児から乳児では肩と太ももを握って丸めてあげればよいです.
少し体が大きくなってきたら首の付け根とおしりに手のひらを当てて,腕と脇を使って足と頭を抱え込むようにします.
特に乳幼児では首の屈曲が強すぎると容易に気道が閉塞するので注意しましょう.

年長児の場合
年長児になってくると体動があった時の力が強くなるので,上記方法だと抑えきれないことが出てきます.
この場合,抑える人の足で患者さんの足を挟み込むようにするとよいです.
抑える人は,
- 股関節を屈曲した位置で患者さんの足を自分の足で挟む
- 左手をお腹の下(穿刺部位の裏のあたり)に入れる
- 右手で首の根本を持って背中を丸める
- お腹の下の腕を前に押し出す
ようにして,左腕を支点にして患者さんの背中の穿刺部位が一番飛び出すように丸めながら,地面に対して垂直になるように調整します.
このとき,お腹の前に入れた手は胸骨圧迫の時にように,肘をしっかりと伸ばして手のひらを処置台に押し付けるように体重をかけ,肩から腕全体を前に押し出すようにします.
押し出すときに押しすぎると患者さんの体が倒れてしまいますが,抑えている人には倒れすぎているか垂直になっているかはわかりにくいので,穿刺する医師が伝えて調整してください.

この姿勢はまぁまぁ,というか,かなりきついので,腰痛持ちの人にはしんどいです.検査時間も20~30分ほどかかるので,しっかりとした体位を取るのは穿刺の直前にするようにしましょう.
2人で抑えられる場合には,
- 1人目:右手をお腹の前に入れ,自分の膝で患者さんの足を挟んで,左手でお尻を抑える
- 2人目:右手で肩から首を曲げて抑え,左手で手を把持する
といった抑え方もできます.
背中が横に曲がってしまうならタオルで調整する
これは個人の感想ですが,乳幼児では成人よりも椎体一つ一つが短いためなのか背中のカーブの影響を受けやすいように思っていて,側臥位を取ると結構脊柱が下に凸の形に屈曲しがちです.
あまり屈曲が強い場合は,頭の下とおなかの下にタオルを引いて脊椎をまっすぐにするようにすることもあります.
手が出てこないように抑えてもらう
鎮静をかけていてももぞもぞ手が動いてしまうことがあります.
不潔になること困るので物品の準備が終わったところで手の空いた看護師さんに手が動かないように抑えておいてもらうと安心です.
針の持ち方と固定の仕方
スパイナル針の持ち方はいろいろな持ち方がありますが,ここでは私が行っている持ち方をお伝えします.
穿刺の際に両手で持つ人もいますが,私は穿刺する際に左手の親指で棘突起を蝕知し,自分の親指の極(きわ)を指していくので,必然的に針は右手のみで把持します.
右手の人差し指と中指の間にスパイナル針の針基をはさみ,おやゆびで内筒(スタイレット)のツマミの後ろを押さえます.
穿刺する際には長さ的に可能であれば,薬指・小指を患者さんの背中につけて固定しつつ針を進めていきます.


腰椎穿刺の深さのめやす
腰椎穿刺の予測式のいろいろ
トラウマタップは髄液検査が上手くできないという点だけでなく,血液腫瘍領域ではエビデンスはないものの白血病治療中では理論的には中枢神経に白血病細胞を送り込んでしまうことになりかねないこともあり,30年以上前から腰椎穿刺の成功率を上げる工夫として穿刺の深さを概算しておくという工夫がされてきました.
近年ではポイントオブケア超音波として,超音波を使って距離を測っておくという方法も出てきています.しかし,穿刺場所の近くにエコーの機械がなかったり,場所が取れなかったりということも多いので,概算方法を知っておくことは大切です.
腰椎穿刺の深さのめやすの概算方法は様々検討されていますが,身長だけ,体重だけ,身長と体重,対表面積,様々な数値を使った概算方法があります.
個人的には,身長だけで計算できるCragの式と体重だけで計算できるBailieの式をよく用います.救急外来だと身長を測れないことも多いので,Bailieの式が使いやすくてよいかもしれません.
- Cragの式:深さ(cm) = 0.03 × 身長(cm)
- Bailieの式:深さ(cm) = 20 + 0.4×体重(kg)
予測式を使う上での注意は以下の項目でお話します.
| 文献 | 穿刺の深さめやす | 備考 |
|---|---|---|
| Hasan(1994) | y(cm) = 0.8+ 0.05 × 体重(kg) 新生児 1cm ± 0.2(0.4~1.5) | 小児(年齢不詳) 586 麻酔時の硬膜外空までの実測 |
| Banadio(1988) | y (cm) = 2.56 × 耐表面積 (m²)+0.77 | 1歳~18歳 158人 元文献入手できていない |
| Crag (1977) | y (cm) = 0.03 × 身長(cm) | 0~16歳 107人の実測値 プロットで誤差 5~10mm程度の幅 |
| Bilić(2003) | y(cm) = 1.3 + 0.07 × 体重(kg) | 195名の小児 Abstのみ |
| Abe (2005) | y (cm) = 1+17×体重(kg)/身長(cm) | 25日~80歳,CTから計測 |
| Stocker (2005) | y (mm) = 0.5 × 体重(kg) + 18 | 小児対象らしい 元文献入手できていない |
| Chong (2010) | y (cm) = 10 × 体重(kg) /身長(cm) + 1 | 中国人・インド人・マレー人の6か月から15歳のLPでの実測 |
| Bailie(2013) | y(mm) = 20 + 0.4× 体重(kg) | 0~18歳の小児225人 超音波での計測 |
| Ma(2014) | 男性:1.27 + 0.18 × BMI 女性:1.68 + 0.067 × BMI | 20歳~89歳のMRIから計測 |
| Celik(2019) | y(cm) = 0.861 + 0.012 ×身長(cm) + 0.035 × 体重(kg) y(cm) = 0.393 + 0.023 × 身長(cm) y(cm) = 1.46 + 0.067 × 体重(kg) | 0-12歳の200mm 実測 |
引用文献1,3-5, 6-10から作成
※ Changの論文では,CragとAbeの式では実際の深さより 0.5~1.2cm深くなったと報告されている
腰椎穿刺の予測式を踏まえた実際の対応
推定式を考える上で一つ大切で,念頭に入れておくべきことは
- 深さの基準を何で測っているか(画像からの推定か,実測か)
- 誤差がどのくらいあるか
という点です.
例えば,Abeの式は簡便ではありますが,CT上での計測であり,Changの報告では実際上はこの式を用いると0.5~1.2cmほど深くなることが報告されています.CTやMRI画像から検討した推定式は,実際に腰椎穿刺の姿勢をとった場合にずれる(おそらくは皮膚軟部組織の進展で,推定式よりも浅いところであたる)ことになるため,検証されているか等,注意が必要です.
Cragの式は実測での計測であり簡便ですが,こちらもChangの検証からはAbeの式同様に推定よりやや深くなるようです.他の式に関しても,穿刺する際の角度など,再現性についての設定がしっかりとされていなかったりします.
上の項でもコメントしたBailieの式(20 + 0.4× 体重kg)はエコーで計測した距離なので,実際の穿刺の深さと若干のずれがあることはあると思われます.Stockerの式を検証した文献では,エコーでの深さより数mmほど深く穿刺が必要だったようですが,Bailieの式の検証がされているかは今のところ私は知りません.

使いやすいCragの式(0.03 × 身長cm)の元文献を見てみると,そもそも穿刺の深さの実測値は推定式の上下1cm程度に分布しています.いずれの式であっても当然ながらあくまで目安として活用し,予測値の1cmほどまえから注意するのがよさそうです.(文献に乗っている実際のプロットを見てみてくださればよく分かると思います)
検体の採取量と保存条件
検体の採取量
おおむね20滴で1mlになります.ただ,遠心後にスピッツから移す際のロスなどがあるため,実際に20滴を保存検体として検査部にまわすと遠心などの処理を経て検体量が 0.6~0.8 mlがくらいに減ってしまう印象があり,”保存1 ml ≒ 25滴” と考えておいた方がいいように思います.
スピッツの円錐部分まででまでで1 mlくらいになりますが,実際にはかなり誤差が出てしまうことが多く,実際保存検体が 0.5 mlも無くて困ったことがあります.スピッツのくびれを目安にする場合には,少し多めに採取しておいた方がいいと思います.目盛りがついている場合にも,上記処理でのロスを考慮して少し多めにしておいた方がいいです.

通常,髄膜炎や脳炎を考える時には
- 1本目:培養/Filmarray用 0.5~1 ml 程度
- 2本目:細胞数・蛋白・糖 など 1~1.5 ml 程度(生化学を2 本目にして,細胞数を3本目にわけてもよい)
つまりおおむね 1.5~2 ml程度が最低量になります.
1本目の検体は穿刺した際に針に混入する血液によって細胞数や蛋白に影響が出やすいため,髄液培養やFilmarrayに回すことが多いです.
新生児や早期乳児発熱の際の髄膜炎の検索・除外の場合はこの量で事足りますが,例えば発熱・頭痛・羞明で髄膜炎・脳炎を疑った場合,ヘルニアの懸念がなければ3~5 ml程度は髄液を採取しておいたが方がよいです.
ADEM・MOG抗体関連疾患・自己免疫性脳炎など,その後画像を取った後で検査を追加したいことが多いので,少なくとも 1 ml程度の保存検体を採取し,0.5 mlずつに分割して凍結保存しておきたいからです.別の検査機関に送付することを考慮して,多めに採取可能であった場合は髄液は0.5 ~ 1 mlずつ小分けで保存しておきましょう.
髄膜炎等で軽度の脳圧亢進がある場合には,髄液採取をして圧が低下すると頭痛が軽減されることもあります.
保存条件の注意
最近検査に出すことが多いFilmarray検査(複数ウイルス, 細菌を迅速に評価できる)は,検体を凍結してしまうと正確な評価ができません.自施設で検査をする場合はよいですが,経過で転院等も考える状況では転院先で髄液Filmarrayを検討する場合があり一部冷蔵で保存,搬送時に一緒に運んでしてください.
その他,検体により保存条件が異なります.
通常は-20℃での凍結で問題ないですが,特に髄液の代謝系検査(ビタミンや伝達物質など)を行う場合には,ものにより遮光が必要だったり,最初に流出する髄液での評価が必要だったり,ディープフリーズザーを要したりなど条件があるものがあります.特殊検査では保存条件を確認しましょう.
以下に各検体の概算必要量や保存上の注意をまとめました.
| 項目 | 必要検体量のめやす | 備考 |
|---|---|---|
| 細胞数 | 0.25~0.5 ml (5~10滴) | |
| 蛋白・IgG | 0.25~0.5 ml(5~10滴) | |
| 髄液糖 | 0.25 ml(5滴) | |
| 髄液アルブミン(外注) | 0.5 ml程度(10滴) | |
| ミエリン塩基蛋白(MBP) | 0.5 ml(10滴) | SRL |
| オリゴクローナルバンド | 0.4~1.0 ml(10~20滴) | 血清と同時提出 |
| 培養・グラム染色 | 0.5 ml(10滴) | |
| 髄液Filmarray | 0.5 ml(10滴) | 冷蔵.凍結すると検査はできるけど精度は下がるため参考値になってしまう. |
| ヘルペスウイルスPCR | 0.5 ml(10滴) | 凍結可 |
| 抗NMDA受容体抗体 | 0.3 ~ 2 ml | 抗NMDA受容体抗体(CBA)のBMLでは0.3 ml コズミックコーポレーションで0.5ml. 研究機関等の場合,他のサイトカインや抗体を含めると2ml程度必要なことも |
| 自己免疫性脳炎関連自己抗体検査 | 1 ml | コズミックコーポレーション(Tissue-Based Assay;TBA)<衛生検査非該当> |
| 抗MOG抗体 | 0.5 ml | コズミックコーポレーション Live CBA法 |
| 抗AQP4抗体 | 0.5 ml | コズミックコーポレーション Live CBA法 |
| 髄液神経伝達物質・代謝検査 ピリドキサールリン酸・ピリドキシン等 5-メチルテトラヒドロ葉酸 モノアミン関連物質 ピペコリン酸 α-アミノアジピン酸セミアルデヒド セピアプテリン | 0.2 ml/項目 | 岡山大学 小児神経科 代謝物分析 ビタミン・セピアプテリンは遮光 モノアミンは最初の1 mlの検体 α-アミノアジピン酸セミアルデヒドは速やかに凍結,-80℃で保存 |
※ 実際の必要量や保存方法は自施設検査部・検査会社に確認してください.
実践編|腰椎穿刺・髄液検査の手順のまとめ
ここまでの内容をまとめて,私が普段行っている腰椎穿刺・髄液検査の手順を準備から順番にまとめてみました.
細かいことを含めて普段レジデントに指導する内容を順番に全部入れ込んであります.
実際に穿刺をする前に,この手順を何度もシミュレーションしてもらって,スムーズな検査を目指してください.
開始前の準備
「鎮静薬剤」と「検体スピッツ」を含めた物品がすべてそろっていることを確認しましょう.
不足があることを考えると処置の30分前には確認しておかないと時間通りに始められません.予定していた時間からずれるとあらかじめ配置していたスタッフの予定が合わなくなったりして無駄にリスクが上がるので,時間通りに始められるようにしっかりと準備しましょう.
他のスタッフに処置時間などを連絡しておいて,処置中の別件の対応をお願いできるようにしておきましょう.穿刺に難渋することも考慮して,スケジュールに1時間程度の余裕をみておきましょう.
穿刺針の深さを計算して,足りなくなりそうなら長めの針(70 mm)を用意しておきます.
- Cragの式:深さ(cm) = 0.03 × 身長(cm)
- Bailieの式:深さ(cm) = 20 + 0.4×体重(kg)
処置直前までに,緊急カート・吸引機の圧力と吸引チューブ・用手換気用のマスク(サイズも)と酸素など,急変対応のための物品を確認しておきます.喉頭けいれんなど起きたとしても対応できるように,物品のサイズ等確認しておきましょう.
SpO2モニタ・心電図モニタのアラーム設定と音量を調整しておきます.適切にしておかないと処置中にアラームが鳴り続けたり,アラームが鳴らなかったりで危険です.アラームの設定は年齢での基準を”バイタルサイン”の記事を参考にしてください.
体位を取った後に困らないようにあらかじめルートの延長をして,三方活栓をつけておきましょう.追加投与をスムーズにするには,閉鎖式のルートの場合には”Cプラグ”をつけていちいちシリンジをつけ外ししないくていいようにするとスムーズです.
絶食時間は問題ないでしょうか?
ラボナールであれば喘息,ケタミンであれば高血圧とけいれん既往(添付文書上は禁忌,よく説明して使うこともある),β遮断薬(イチゴ状血管腫,片頭痛,心疾患で使用可能性あり,血圧が下がりやすくなる)の内服の有無など,使う薬剤の禁忌事項がないか確認しましょう.
服装は問題ないでしょうか?胸ポケットは空にして名札は外し,処置中に清潔野に物が落ちないように注意します.帽子もかぶりましょう.
鎮静前・処置前のチェックリストなどがある施設はチェックリストに則って確認し,タイムアウトをします.
鎮静をする
鎮静開始前に,万が一呼吸・気道が悪化した場合にどう処置するかを思い浮かべておいてください.
- 肩枕の準備はありますか?
- 喉頭けいれんが起きたらどうしますか?
- 喉頭協のブレードはいくつですか?
- 挿管チューブは何mmで, 何cmで固定しますか?
本人がマスクをしていれば外しておきましょう.
モニターを確認して鎮静薬を投与します.
お腹の動きを注意してみましょう.手を当てて確認してもよいです.
胸骨上の陥没が目立つなら肩枕を入れましょう.
問題なければ体位を取っていきます.
体位をとる
”う〇ちガード” と ドレープ(覆布)の固定
おむつが外れていない年代の子,特に乳児期には体位を取った際の腹圧で便が出てきてしまうことがあります.穿刺開始前ならよいですが,穿刺中に便が清潔野まであふれてくるのはかなりの恐怖です.
体位を取っておむつをずり下げた後に,太目の紙テープでオムツの上端を張り付けて隙間を埋めておくことで予防できるので,乳幼児の場合にはやっておいた方が安心です.

消毒をする前に,患者さんの腰の下に防水シートを敷いておくと後片付けが楽です.
覆布をかけた後,体動などで覆布が垂れてこないように覆布の上側の端っこの左右を,本人の肩や太ももなどにをテープで固定しておきましょう.
体位の取り方
前述の体位の取り方のところに詳しく記載しています.
ポイントとしては,
- 股関節を屈曲させて背中をしっかりと丸め,穿刺部位を一番突出せること
- 地面に垂直になるように調整すること
体位を取るときに,患者さんの背中が地面にしっかりと垂直になっている方が成功率も高いですし,髄液採取で滴下する時にスムーズになります.体位にはしつこいくらいこだわって指示した方がいいでしょう.
処置台の高さが調節できるものであれば,ちょうどよい高さに合わせておきます.
私は椅子に座るよりも膝立ちの方が,針の向きなどを確認する時に動きやすいので好みです.
消毒をする
エムラクリーム®を塗布している場合は消毒前にふき取りましょう.パーミロール®などの被覆材を使っている場合には,はがすときの刺激で起こさないように,リムーバーやアルコール綿の絞り汁を使って優しく剥がします.
消毒は穿刺部位から円を描くようにだんだん外側にいくように範囲を広げていきます.あまりびちょびちょだと上から消毒液が垂れてくるので気を付けましょう.

2回消毒することが多いですが,1回目はかなり広めに行い,2回目はそれよりやや狭い範囲を消毒します.ヤコビーで穿刺をしてうまく入らない場合に,椎間を上げたり下げたりするので,上下に広く消毒しておいた方がいいです.
穿刺をする
実際に穿刺をする際に注意する点は,以下4点です.
- 棘上突起の下縁ギリギリのど真ん中を穿刺する
- 表皮を刺すときはだいたいもぞもぞする.止まってから針を動かす.
- 表皮を貫いた後,進める前に”水平・垂直”を確認する
- 解剖学的構造ごとの手ごたえを意識する
順番に見ていきます.
棘上突起の下縁ど真ん中を穿刺する
左手で棘上突起の下縁を蝕知します.おおむねヤコビー線がL4棘突起に相当しますので,ヤコビー線で触った棘突起の下縁を穿刺することになります.
成人では長方形な感じですが,乳幼児では丸っこい感じで下縁がわかりにくいです.一つ下の棘突起の上縁・下縁も触っておいて,棘間の感覚を捉えておくのがよいでしょう.
この棘突起の蝕知に関しては,経験の浅いレジデントでは大きくずれることあるので,指導側として経験があまりないレジデントに腰椎穿刺を教える場合には,必ず自身も滅菌手袋をつけて穿刺場所の確認をした方がよいです.
左手の親指を立てて棘突起の下縁に当て,”下縁ギリギリ”の”ど真ん中”を”本人の背中の面にまっすぐ・水平・垂直に” 穿刺します.

表皮を貫く時にもぞもぞするので,止まってから針を進める
表皮を貫く時が一番痛いので,かなりしっかり鎮痛・鎮静がかかっていないと刺した瞬間にもぞもぞ動きます.刺す前にはあらかじめ周りの人に”動くと思うので注意してください“ と声をかけましょう.本人の手が自由になっていると覆布が捲れたり,点滴が引き抜かれたりといったトラブルが起こるので,手が空いているスタッフがいたら手を押さえておいてもらいましょう.
もぞもぞしている間に針を動かすと,針が曲がったり折れたり,変なところに迷入したりしがちです.本人が動いているときには針を進めず,体動が落ち着いてから針を進めていきます.途中で体動が出る場合も体動がおさまるまで針を進めずに待機しましょう.
体動が強すぎる場合は,針が折れ曲がったりして危険なので鎮静を追加するか,撤退を検討します.
進める前に水平・垂直を確認する
表皮を穿刺するともぞもぞ動きます.動いた後は若干体位がずれていることがあります.鎮静がしっかりと深く入っている時は,抑えている人に指示して体位を調整して地面に垂直に戻してもらいましょう.

鎮静が浅めだと体位をずらすと再度もぞもぞ動いてしまうことが多いです.深く差していく前に鎮静を追加しましょう.何らかの事情で鎮静の追加が難しい場合には,”本人の背中の面に対して” 水平・垂直になるように針の向きを調整します.

穿刺の正面からの確認では多くの場合ずれてしまっているので,上からのぞき込んだり,横から見たりして確認しましょう.
この時に,針を把持している手をしっかりと患者さんの背中に当てて固定し,手首から肘までをなるべく動かさないように意識して確認すると,確認の時の体の動きで穿刺針の向きがぶれてしまうことを減らせます.首から先だけで覗き込むようなイメージにするとちょうどそんな感じになると思います.
慣れておらず人手があるときは,横から見ているスタッフに針が体に対して垂直になっているかを見てもらうとよいです.
さらに細かいことを言えば,この際,刺し下げるよりも,差し上げる方が検体の採取が楽です.
あまり角度をつけて刺し下げてしまうと,穿刺後に採取する際に本来の滴下したい場所から髄液が下の方に垂れていってしまい,場合によって2か所から髄液が垂れていくことになったりして,大層困ります.

ですので,後々のことを考えると,あまり急な角度で針を刺し下げないといけない状況では体位を調整した方がいいと思います.
解剖学的構造ごとの手ごたえを意識する
表皮を穿刺した後,手ごたえとしては少しざらざらした手ごたえを抜けた後,タイヤのゴムのような弾力の手ごたえになり,進めていくと抵抗が軽くなります.軽くなるタイミングでプツッとした手ごたえがあることがあります.
これは順に,粗な皮下組織を超えた後で,弾性繊維が豊富な棘上・棘間靭帯を通過し,黄色靭帯ないし硬膜を貫いた手ごたえになります.高齢者では靭帯が固くなっていたり,石灰化していたりで独特の手ごたえがありますが,小児では黄色靭帯の手ごたえは感じにくいらしいです.

ゴムのような手ごたえがある時には,棘間靭帯を通過中と考え.通りすぎないように,慣れないうちは推定される深さの少し手間から内筒を抜いて確認しながら,慎重に進めましょう.また,手ごたえがわからない時は,おおむねの目安の深さの1cm程度手前から時々内筒を抜いて髄液の流出の有無を確認しながら針を進めましょう.
- Cragの式:深さ(cm) = 0.03 × 身長(cm)
- Bailieの式:深さ(cm) = 20 + 0.4×体重(kg)
ゴムの手ごたえが急に軽くなったら内筒を抜いてみて確認し,流出がない場合は,針先を1/4反時計回りに回してみて流出がないかみてみましょう.出てこない場合は内筒を戻して数mm進めてみましょう.
針を進める際には,常に一定の力の入れ方を意識することで,組織ごとの抵抗感が感じやすくなります.
途中から内筒を外して進めていくテクニックもありますが,腰椎穿刺の成功率には影響しないようです.
ちなみに,穿刺後の頭痛を防ぐために針の穴は上向きで穿刺するようにします.硬膜の繊維が頭尾方向に走っているため,針を横向きで穿刺をしてしまうと硬膜繊維を切断してしまいやすく,髄液の漏出が増えると考えられています.

穿刺時のトラブルシューティング
- 刺してすぐに骨に当たってしまいます
-
棘突起の部分を刺してしまっています.ヤコビー線の位置を再確認して椎間を確かめ,棘突起の下縁を左手の親指の先で蝕知しましょう.場所がだいたいあっていれば,少し尾側(右側)を再度穿刺してみましょう.
棘突起に当たっているということは少なくとも正中線周辺に刺さっているということではあります.
- 途中で何かに当たってしまって進みません
-
棘突起以外の周辺骨に当たっている状況です.皮下ぎりぎりまで引き抜いて方向を調節しましょう.
□ 体位は,背中が十分に屈曲されているか
□ 刺入部位は棘突起下縁で,真ん中か
□ 針の角度は本人の背中の面に水平・垂直か解剖のところで解説していますが,棘突起の傾斜を意識して針を頭側に10~20°ほど角度をつけてみてもよいです.
- 髄液の流出が途中で止まってしまいました
-
針を回転させましょう
針先に神経根やくも膜繊維が吸い付くと髄液の流出が途中で止まってしまうことがあります.針先を1/4ほど回転させると再度流出することがあります.少しだけ押し込んでしまったり抜けてしまった場合もあります.内筒を入れずに少し引き抜いたあと,少しずつ進めてみるのもいいかもしれません.
決してシリンジで引いてはいけません. - 針の中で血液が固まってしまいました
-
内筒を出し入れしてみると再度流出することがあります.改善がなければ残念ながら刺しなおしです.
- トラウマタップになりました.
-
深すぎることが多いです.少し手前に引いて髄液が出てこないかみてみてください.
だめなら位置を調整して再度穿刺します.
- 手ごたえ的には当たっていそうなのに,逆流がきません(ドライタップ)
-
ヤコビー線で刺したつもりでかなり下になっているか,上下にずれていることが多いです.引き抜いて,刺入位置,水平・垂直を確認して調整しましょう
検査前の絶食による脱水で髄液圧が下がっていたと思われる症例もありました. - 椎間を変えたいのですが,ドレープの穴が足りません.
-
ドレープの上下を破いてしましましょう.
一度はがして貼りなおすと消毒範囲外の部分に触れていたところが,穿刺部に触ってしまう可能性があります.ドレープの上下(というか頭側と尾側)を必要なだけ破る方がよいです.
検体を採取する
スピッツの円錐部分で1ml,20滴で1mlです.検体の処理を考慮して2~3割多めに採取します.
髄膜炎の除外・検索:1.5~2 ml
その他の脳炎など:3~5 ml
ミトコンドリア呼吸異常症などの鑑別のために乳酸/ピルビン酸を確認したい場合は,除蛋白スピッツに1ml程度の髄液が必要です.除蛋白のスピッツは滅菌されていないと思いますので,介助者に横から髄液採取をお願いする必要があります.
髄液採取の際に針が水平より上向きになっていると,髄液が変なところに垂れて行ってしまって採取が難しくなります.水平ないしは下向きになるように体位を調整しましょう.
検体のスピッツを1本ずつ取って,他のスタッフに手渡してふたをしてもらう方法もありますが,手が接触したり落下させるリスクもあり,人手も余計に必要なので個人的にはあまり好きではありません.
私自身は左手に2~3本のスピッツをまとめて持って,少しスライドさせながら滴下採取を行います.終わったら内筒を少し入れておき(そうすると両手が空くので),ふたを閉めた後に処置台に並べておきます.手の大きさが小さかったりすると難しいと思うので,自分がやりやすいやり方を考えてください.

終了時の注意
髄液の採取が終わったら,脊髄針を引き抜く前に内筒を挿入しましょう.
内筒を入れずに針を抜くと,針先に吸着されたくも膜繊維が硬膜の穴に挟まってしまうことで脳脊髄液(CSF)の漏出が続く経路が形成され,術後の頭痛のリスクが高くなるといわれています.
血がにじんでくれば軽く圧迫して止血します.刺入部は一応消毒していますが,あまり意味がないとも思います.
終了後
終了後は姿勢を戻して呼吸などを確認して,タイムアウトを行います.
髄液検査後の安静は慣習的に1時間程度とすることが多いです.安静時間をあまり長くしても穿刺後頭痛の発生率は変わらないとされています.小児でも30分の安静と4時間の安静で穿刺後の頭痛や腰痛の発症率に違いはなかったようです.
また,スピンラザ®の投与後も頭部を挙上しない体制で安静時間は1時間となっています.
頻回に髄液採取を行う患者さんで穿刺後の頭痛が多い場合には,臥床時間を伸ばすよりも穿刺針を細くするなどの工夫をした方がいいかもしれません.
最後に
腰椎穿刺はいろいろなコツを意識して行うことで成功率は格段に上がります.
穿刺の深さのめやすを含めて事前準備をしっかりとして,安全・確実に検査をできるように心がけましょう.
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