小児の点滴ルート確保が上手くなるためのコツと理論
この記事を作成した日:2024年11月11日
記事内容の最終更新日:2025年9月21日
この記事は小児のルート確保について一番詳しくて役に立つ記事を目指して加筆修正してます.
さて,医師免許をとって初期臨床研修を始めた先生方が始めに苦労するのは,“ルート確保“ だと思います.
練習用のスポンジなんかで指の使い方を練習して,自分の手や同期の手をアザだらけになるほど何度も何度も刺して,実際に体型や年齢,全身状態もさまざまな患者さんのルートを確保して段々と上達していくものですよね.
そうやって
「大人のルート確保ならなんでも来い!輸血ルートだろうが16Gだろうがなんでも入れてやるぜ!」
となった頃に小児科ローテートをすると,“御作法“ から針の太さ,刺入のコツ含めて何から何まで異なるので非常に戸惑ったことを覚えています.(今は逆に大人のルート確保ができる気がしませんが…)
子どもは痛みに敏感です.
処置に伴う痛みのマイナスイメージは,治療の際の信頼関係にも影響しますし,最近では新生児期から含めての疼痛を伴う処置が,将来にわたって影響を残すという話もあります.
採血やルート確保は小児において一番多く行う痛みを伴う処置です.
手先の器用さや指先の感覚の鋭さは人によって違いますが,誰でも考えながらルート確保の練習を続けていき,考えながらトライ&エラーを繰り返すことで日々上達することができます.
その努力は巡り巡ってこどものためになります.
この記事では,小児のルートをとるようになった初期研修医・小児科後期研修医の皆さん,普段小児のルートも取らないといけない看護師さん向けに,私がルート確保の際に考えていること,今まで他の先生から教わった色々なコツについて紹介しています.
ルート確保の成功のカギは準備|勝負は始まる前から
足りないものがないように準備をする
ついつい忘れがちですが非常に大事なことは,“足りないものがないようにしっかりと準備する“ことです.
なぜなら
- ものが足りずに取りに行く時間に子どもが暴れてしまう
- 取りに行くものを指示するのに手元から目を離した瞬間にせっかく入れたルートが抜けてしまう
なんてことはよくあるからです.
事前にしっかりと準備してルート確保に要する時間を短くすることで,突発的な事故が起こる可能性が低くなり,ルート確保の成功率が上がります.
ルートの固定方法は各病院によって様々ですが,共通して使用するものは ↓ の物品でしょうか.
- 抑制帯(バスタオルなど)
- 処置シート
- 駆血帯
- 枕
- アルコール綿
- 血管ライト,もしくは エコー
- 留置針
- 検体スピッツ(必要に応じて)
- 点滴ライン(延長ライン,三方活栓,生理食塩水入りシリンジ,三活のフタ)
- クッションテープ(褥瘡予防)
- 固定用テープ(透明フィルム他;施設ごと)
- 固定用シーネ
- シーネ固定用テープ
- 刺入部位のカバー
- シーネごと覆うカバー(必要に応じて) </aside>
ルート確保に必要な物品のうち,固定方法については各医療機関で違ったりするので,自分の施設での必要物品は早めに確認して置きましょう.
看護師さんが準備してくれる施設もあるかと思いますが,ダブルチェックとして自分でも物品がしっかり揃っているか確認しましょう.特に若手の看護師さんと組むときは大事です.
物品がなかなか思い出せない人は,自分がルート確保する時の手順を思い出しましょう.
その順番で物品を覚えておけば漏れが少なくなります.
子どもに点滴の必要性を説明する
私は言葉を話すようになった年齢の児には,必ず点滴が必要であること,今から処置をすることをお話しするようにしています.
“説明がわからないのではないか” というご意見もあるでしょうけれども,人の表情を読むのが得意な子や長期入院中の子の中には,こちらの思いが伝わっているように感じる子がいるからです.
また,2〜3歳以上の子にはプレパレーションも有効だと思います.
CLS(child life specialist)やHPS(hospital play specialist)の在籍している施設で行ってもらえるでしょうし,資格がなくても病棟保育士さんたちはプレパレーションの知識をたくさん持っていると思いますので,相談するのが良いでしょう.
実際に処置する段になって,私は
「いやだよね.でも病気を良くするのにやらなきゃいけないんだ.怖くていやだと思うから泣いちゃってもいいよ.でももしできたら,頑張って手を動かさないようにしてくれると助かるよ.」
とお話をしています.
3~4歳の子の中には,大声を出して泣くけど本当に手を動かさないように我慢してくれる子がいます.本人ができるだけ手を動かさないようにしてくれるだけで,点滴の成功率が全然違います.
言うまでもなく,頑張ったあとはしっかりと褒めてあげましょう.
手足を温める
どんなに手技自体が上手くても,子ども手足が冷えていると血管が収縮してしまいます.
血管自体がかなり細くなってしまっているので
- 血管には当たるんだけど逆血が弱い
- カニュレーションする(外筒を押し込む)タイミングで血管から漏れてしまう
頻度がとても増えてしまいます.
このタイミングでルート確保をしようとしても成功率は低いでしょう.
ショックなど全身状態不良の時はなんとかするしかないですが,時間的に余裕がある場合にはホットパックや温タオル,掛け物などで体を温めましょう.
ホットパックでの低温やけどには注意してください.
抑え方のコツ |しっかりと固定するのがいちばん大事
“魔のグリグリ“
この言葉だけで何を言っているかわかるアナタは,乳幼児の点滴確保で苦労した経験がある方でしょう.
魔のグリグリとは,留置針を刺入する瞬間や針を進めるときに,子どもが腕を捻ったり手を強く握ったりして“グリグリ“することです.私の造語です.
これによってせっかく狙った血管が刺入点からずれてしまったり,針が血管壁を突き破ってしまったりといったことが起こります.
ルート確保の成功率を上げるためにはこのぐりぐりをできるだけ抑えて
“どうやってしっかりと子どもの手を固定するか“
ということに,さまざまな工夫をしていくことが大切です.
私の工夫を挙げていきます.
手首の近くを抑える
グリグリによって血管が動いてしまうのを防ぐために一番大切なことは
“前腕の回外・回内を防ぐ”ことです.
ヒトの関節には様々な種類があります.
その中で,球関節や臼状関節は多軸関節であり非常に可動域が広くなっています.
臼状関節は言うまでもなく股関節ですが,球関節は肩関節と肘関節にあります.ルート確保の際には,この肘関節の可動域を制限することで安定した手技ができるようになります.
肘関節の屈曲・進展(曲げ伸ばし)と回内・回外を防ぐことを考えればイイわけですね.
では,回内・回外を防ぐためには,どのようにしたらいいでしょうか?
回内・回外は橈骨と尺骨が肘関節を軸としてクロスすることで起こります.

肘側では骨の動きは小さいですが,手首側では骨の動きが大きいため,手首を抑えることで前腕の動きを効率的に抑えることができます.
手に何かを握らせる
小児では手背で採血をすることが多いです.
上記のように前腕は動きが大きい上に,皮下組織が柔らかくて血管が逃げやすいこともあります.また,成人より血管が細く皮下組織が相対的に厚いため,血管を触知しにくいのも理由です.
手背で血管確保をするときに考えることは
“手根中手関節を固定する“
ことです.

手根中手関節を固定するってどういうことなんだろう,と思われると思います.
試しに手を握ってみましょう.
ゆるく握ったときには,中手指節関節がまず屈曲すると思いますが,このときには手背の血管の位置は大きく変わりません.
次に,手を強く握り込んでください.
先ほどの中手指節関節が屈曲するのに合わせて,若干小指側の指が中に入っていくのがわかると思います.小指が他の指に比べて短いので,強く握り込むと小指の中手骨が若干掌側に倒れ込む感じですね.
そうすると,手背の皮膚が小指の動きに合わせて引き込まれますが,それに合わせて手背の静脈が尺側(小指側)に偏位してしまいます.
また,皮膚全体が強く伸展されるため、静脈が潰れてしまって見えにくくなってしまいます.

左:軽く握ったとき 右:強く握ったとき
手根中手関節で尺側の中手骨が掌側に入り込むので皮膚が伸長されるため,血管の位置も横にずれ,血管がつぶれる.
これが,よくある “針を刺したら血管が動いてしまう“ 状況で,針の刺入部位と血管の位置関係がずれてしまい,逆血がこなかったり,カニュレーションが失敗してしまう原因になります.
これを防ぐための方法は,“手にものを握らせる“です.
先ほどと同じように,手を強く握る際に,小指側に反対の親指を握ってみてください.流石にある程度皮膚は伸展されますが,先ほどに比べてかなり緩和されており,静脈の左右の位置がほとんど動かないことに気づくと思います.
たったこれだけで,ルート失敗の可能性はグッと下がります.
実際には,血管ライトを握ったりすることもあると思います.また,こどもの手汗で滑ることを防ぐこともコミで,ガーゼなどを一緒に握らせるのもいいかもしれません.
手首の下に枕を置く
手の可動域を制限するのが非常に重要なのは,ここまででお分かりかと思います.
ルート確保の際に成功率を下げる手の動きのもう一つが手首の動きです.
手首は伸展屈曲と左右への動きが可能な関節です.
左右への動きは,前腕部を抑えることと,手指を抑えることでかなり抑制できます.では,手首の伸展屈曲を防ぐためには何ができるでしょうか.
通常,前腕は肘関節から先にいくにつれて細くなり手首で最も細くなり,手首から遠位にいくにつれて再度太くなります.これにより手首では前腕と床の下にスペースが出来てしまいます.

スペースがあれば動けますから,ここをそのままにして置くとルート成功率は下がるわけです.手首が屈曲伸展すると皮膚が手背の皮膚が伸び縮みするので,血管が潰れてしまったり,皮膚が弛んで刺入が狙ったところにうまく入らなかったりします.
対策として手首の下に手枕を入れることで手首も固定しましょう.
子供の体を固定する方法
バスタオルなどを体に巻いて固定する場合が多いと思います.
コツは
- 穿刺する手と反対の手は肩までバスタオルで巻くこと
- 巻いたタオルは児の体の下にきっちりと入れること
です.
身体抑制になるので注意が必要ですが,針という危険物をあつかう異常は必要なことなので,適切に行って素早く処置を終えられるようにしましょう.
抑える手の肘から先を地面につけて接地面積を増やす
子どもは思ったよりも力が強いものですから,自分の手から先だけの力で固定しようとするとどうしても動いてしまいます.
特に乳幼児の採血では,自分の肘から先が全部床につけるようにスペースを作って固定することが大切です.
こうすると,肘に自分の体重を乗せることで非常に安定した固定ができます.
また,自分がそのようにポジショニングできるように,処置台の周りのスペースを開けたり,子どもを寝かせる場所をずらしたり,といった場所づくりも大切です.
勝負は準備から始まっています.
針を刺す時に考えること
留置針の構造を理解する|内筒と外筒のすきまはどのくらい?
後期研修医に「留置針の構造って知ってる?」と聞くと多くの研修医は「知っている」とがあると答えます.この記事を読んでいる先生も,“またその話ね“ と思って読んでいる人も多いかと思います.
では,あなたが普段使っている留置針の
- 針先の切れ込みの長さは何mmでしょうか?
- 針先の切れ込みの終わりから外筒までの距離はどのくらいあるでしょうか?
内筒と外筒のすき間
…知っていますか?

知っている先生がいたらごめんなさい.脱帽です.
小児では,内径が非常に狭い血管にカニュレーションをしなければならないことが多々あります.
出生後から長期にNICUに入室している子,肺炎などで入院が頻繁になっている医療的ケア児の子などは,“良い血管“ はほとんど残っておらず,蛇行した血管や髪の毛みたいに細い血管しかないこともあります.また,手背の血管は全て潰れており,指先などの細い血管をカニュレーションしないといけないシチュエーションもあったりあします.
“逆血がきてから針先を最低限どれくらい進めれば血管内に外筒が入っている可能性が高いのか“
ここに関する知識と感覚は成人にルートをとるときよりシビアに求められます.
いつも使っている留置針をもう一度見直してみましょう.
長さを計るまでしなくても良いですが,自分の持っていた印象と比べて実際の形を擦り合わせてみてください.
血管ライトの使い方と注意 |ライトマンと呼ばないで
血管ライト(赤色ライト)は小児科医の強い味方です.
いろいろなタイプがあり,一般的なのは赤色光を後ろから透過するものですが,表面にライトを当ててみやすくするタイプライトもあります.個人的には表面に当てるタイプのものはそれなしでも見える血管しかわからないので,裏から透過する方が好みなんですが…
よくつかうのがここのイーエスユーで販売している黒いやつで,米国FDAに医療用TRANSILLUMINATORとして登録されているらしいです.
外勤用に1つ持ってますが結構高いですよね.
イーエスユー有限責任事業組合
商品名:MK-02GX 8,700円[税抜]9,570円[税込]
いつでもどこでもどんな状況でもルート確保ができるのが小児科医である!というポリシーなのか,ライトがないとルート確保ができない人を “ライトマン“ と読んで揶揄されるところもあるようですが,私はライト賛成派です.
ライトなしで確認した上でライトでも確認して,両方の方法から見た上で一番確実そうな方法をとることで子どもの負担を極力軽くする努力をするのが小児科である,と思うからです.
ライトなしでルートをとる練習がしたかったら,刺すときにライト消したら良いですよ.
ただ,血管ライトを使うときにもいくつか注意点とコツがあります.
しっかりと頭に入れて使うようにしましょう.
見えている血管は影絵!|影の真ん中を狙うのがコツ
血管ライトを使う場合の注意点は,“見えている血管は影絵である“ということです.

左の図のように,下からライトを当てた場合には,血管と皮膚の距離に応じて実際の血管の径よりも,ライトで見える影絵の方がある程度大きくなります.
比較的浅い血管の場合には大きな差はありませんが(そもそもライトもいらないかもしれません),深い血管であればあるほど,表面に見える影絵は大きくなり,ぼんやりしてしまいます.
深い血管を狙う場合には,血管ライトの影絵の極力真ん中を穿刺する方が良いでしょう.
また,影絵であるため,ライトが真下から当たっていない場合には目に見えている影絵の真ん中を穿刺しても血管に入らないことがあります.かすってしまうことが多いでしょう.
- ライトをできるだけ真下から当てるように気をつけること
- 真横から当てられない場合には,影絵であることを意識して若干中心からずらして穿刺すること
を意識してください.
熱傷に注意
血管確保が難しいと,血管ライトを躍起になって当ててしまうことがあります.
血管ライトは長時間点灯しているとそれなりに熱くなってしまい,ライトを長時間当てる(といっても10分以上の単位ですが)と低温火傷を生じてしまいます.
血管ライトを使う場合は,こまめにライトを消しましょう.
前腕の血管も透かして見える|意外とできる
血管ライトの使い方のコツとして,前腕の血管を透かしてみるというものがあります.
医療的ケア児などで手背の血管でルート確保可能な血管がなくなってしまうことがしばしば経験します.重症な肺炎だったり,消化器症状だったりで長期に点滴が必要になった場合に多いです.
PICCを挿入してしまうのも手かも知れませんが,一般病院ではハードルが高いと思います.
そんなときには,血管ライトで前腕を照らしてみましょう.
前腕を血管ライトで照らす場合,真下から照らすのは骨や軟部組織の厚みで困難です.
“あえて“ 真下から当てずに,やや斜め、場合によっては真横から当ててみましょう.
比較的深いのでうっすらとですが,血管が透過して見えます.

前腕に血管ライトを当てると蝕知しにくい血管も透過してだいたいの位置がわかるります.
”影絵”であることを意識する必要がありますが,特に重症心身障碍児で手背の血管が乏しい時には有効な手段の一つです.
その後で,手で触ってみて触覚で位置関係をみてみたり,血管ライトの位置を確認して血管の位置を予想してみましょう.
場合によっては,血管ライトを一回消してみてみると,皮膚の盛り上がり方や皮膚色がうっすら緑であることから,目視で血管位置がわかることもあります.
慣れると,この方法で比較的高い確率でルート確保ができます.
試してみてください.
留置針の進め方のコツ
しっかりと肌にテンションをかける|肌に”はり”のある状態で刺す
ルート針を刺入際にまず大事なことは,穿刺する場所の皮膚を張りのある状態にしておくことです.
これをしないと針を刺したところがたわんでしまって刺入点が血管の真ん中からずれてしまったり,血管が蛇行して逃げてしまったりが起きます.
特にぷにぷにの乳児と,一度ふっくらした後に痩せた子(大人もやせ型の人で特におじいちゃんおばあちゃんに多いですよね)では注意が必要です.
逆に張りを強くしすぎると静脈が虚脱して入れにくいので,ちょうどいい感覚をつかむしかないです.
手背の血管を狙う時は
- 人差し指と中指で児の手首をはさみ,親指を使って人差し指から小指までを握りこむ
- 人差し指で少し前腕側に皮膚を引っ張る
- 親指は中手指節関節(握りこぶしの出っ張り)に引っ掛けたあとに,皮膚を引っ張りながら下に織り込む
ように手を持つといいです.

この時に,慣れていないと人差し指がだんだんと下がってきてしまって皮膚がたるみ,失敗します.刺入時に皮膚がたるんでしまう人は無意識に人差し指が下がってきていないか確認しましょう.
前腕の血管を狙う場合では,手の下側から持って手前に引っ張ると穿刺時に邪魔にならずに固定できたりします.
この時に手を上からかぶせるように持っているとルート針を進めようとして寝かせるときに邪魔になり,針を寝かせるために持ち替えた瞬間に漏れたりします.
「刺入部より遠位を持って,親指と人差し指で若干左右に皮膚を引っ張りながら自分の手首ごと手前に引いてくる感じ」
にすると前腕の皮膚がしっかりと伸びて刺入時に皮膚がたるまなくなります.

狙っている刺入点に近いところを持ちすぎると引っ張ったときに血管が虚脱してしまうのでうまくいきません.

逆に遠いところを持ちすぎてもあまり皮膚にテンションをかけられないので,血管が虚脱しないギリギリのところを持つといいです.この辺りは経験するしかないですね.
穿刺直後に“圧を抜く“|押し続けると血管は虚脱する
留置針の先端は皮膚を貫きやすいように非常に工夫された形になっています.
しかし,小児の皮膚は弾力が強く,表皮・真皮が “切れる“ までにある程度,皮膚がくぼみます.これを防ぐためには,針が皮膚を切り裂きやすいように,固定の際に皮膚をしっかりと張って,テンションをかけることが重要です.
しかし,いくらしっかりとテンションをかけたとしても,ある程度皮膚はくぼんでしまいます.皮膚がくぼんでいる間は,血管もある程度虚脱しています.
小児の血管は細いので,このくぼみが致命的になることがあります.
表皮や真皮におされて内腔がつぶれてしまった血管に留置針をカニュレーションするのは困難です.
このようなことを防ぐために,穿刺して表皮・真皮を切り裂いた後で,ほんの僅かに針を引いて皮膚のくぼみを取りましょう.くぼみが取れたら再び針を進めてみましょう.再びくぼむことはほとんどないと思います.

左:皮膚を切ったままの状態.血管が圧迫される
右:慎重に留置針をほんの少し抜くことで圧が解除される
しっかりと固定されていない状況でこの方法をとると,引きすぎて針が抜けてしまうことがあります.上記の固定方法でしっかりと固定しておくことで,繊細な操作ができるようになります.
外筒と内筒の差を考える|外筒が入らないと外筒が”弾ける”

左:内筒の一部のみの場合に内筒のみ逆血がある
真ん中:外筒の一部の血管内に入ると逆血がくる(まだ近い側の外筒は入っていない)
右:近い側の外筒も血管内にある(外筒を進めても弾けにくい)
留置針の構造のところでお話しましたが、外筒と内筒の間にはわずかに距離があります.
逆血がはじまるのは,内筒の遠い側の内腔が血管内に入った時です(左図).
ここから,内筒の近い側 → 内筒と外筒の間,もしくは外筒の遠い側 → 外筒の近い側の順番で血管内に入っていくことになります.
角度によっては外筒に逆血が戻ってくるタイミングでは,外筒の近い側がまだ血管内に無い状況が起こり得ます(真ん中図).この状態で外筒を進めると入りきっていない外筒が血管壁を押し込んでしまい,”血管が弾けて” 漏れてしまいます.
針の先端から外筒までの距離を把握しておくと過不足なく血管内に外筒を入れることがしやすくなります.
また,手先が敏感な人はこの外筒が全部血管内に入る瞬間の手応えを感じることが出来るようです.
…私には無理です.
血管の中での針の動きを想像する|血管の後壁を突き破らない工夫
針先はある程度の長さがあります.
逆血が来たあとは、極力針を寝かせて針先が反対側の血管壁を貫かないように進めていきましょう.
大人のルート確保と比べてかなり寝かせた方がいいです.ほとんど横倒しで大丈夫です.
細い血管を狙うときはそれでも貫いてしまうことがあるので,途中で内筒の針を180度ひっくり返す人もいます.

血液の逆流が強い方向に進める|血管の走行に沿って進める
大人に比べて子供の手は小さく平坦な部分が少ないです.

大人の血管(左)は平坦部分が多いが,こどもの血管(右)は手足が短い分平坦な場所は少ない.
そのため,上から見て真っ直ぐに見える血管でも,三次元的にみると血管はまっすぐ走っていないことが多いです.この深さのカーブを見た目に判断するのはとても難しいです.
- 軟部組織のカーブから血管のカーブを想像すること
- 逆血が一定の早さでくる方向を探しながら針を進めること
で成功率をあげることができると思います.
ただし,あまりにゆっくり針を進めていると,内筒の中が血液で満たされて逆血がわからなくなってしまうので注意して下さい.
その場合は内筒のお尻のキャップを外すという最終手段もありますが,周りが血だらけになります.
固定の時に目を離さない|油断すると抜ける
上手くカニュレーションできると安心しますね.
看護師さんも固定のテープを貼るために本人の抑えを緩めたりします.
このタイミングでチャンスとばかりに子どもがもう一回激しく暴れだすことはよくあります.
苦労して入れたルートがぬけてがっかりしますし,何よりもう一度子どもに痛い思いをさせなければならなくなります.失敗する回数が増えるとそれだけ血管確保がしやすい血管部位がなくなっていきます.
また,固定用のテープの粘着力が強いと手袋にルートがくっついて抜けてしまうことがあります.
くっつきにくい手袋を選んだり,注意してやりましょう.
固定のするまでかルート確保です.
最後まで気を抜かないようにしましょう.
初期研修医がハマりやすい小児と大人の血管ルート確保の違い
小児の血管は “浅い“
私が小児科を始めたときによくやったミスが,血管の少し手前から穿刺することです.
医学生時代や初期研修時代にしばしば指導されたことは,「二股の血管の合流部位の少し手前から刺すと血管が逃げにくい」というものです.
確かに大人のルート確保では役に立ちました.
しかし,小児の血管は浅いところにあるので少し手前から刺してしまうと血管の下に潜り込んでしまうことが多いです.
血管のまっすぐな部分が短いためカニュレーションの距離を稼ぎたいなど特殊な事情がない限りは,血管の真上から穿刺した方が成功率が高くなると思います.
ただし,浅いところにあるので刺した瞬間に逆血がくるため注意が必要ですし,しっかりと皮膚表面を張って凹みにくくしておく必要があります.
小児の血管は “細い“
小児の血管は大人に比べて非常に細いです.
内径が小さいため,穿刺の時の針をよく寝かせないとすぐに血管を貫いてしまいます.
貫いた後のリカバリーも難しいので,穿刺の角度を注意しましょう.
小児の血管は ”山なり“
小児は軟部組織は比較的厚い一方で腕や手背は短いため,相対的に軟部組織が盛り上がります.
盛り上がってぽてっとした軟部組織に合わせて血管もまっすぐではなく,3次元的に(浅さ深さの)カーブがあります.

左:大人の血管の走行.真ん中あたりはまっすぐな部分がある.
右:乳児の血管.まっすぐな部分が少なく,カーブがきつい.
特に乳児期後期のもっちりむっちりとした子では,大人と同じようにまっすぐ進めていくと血管のカーブに合わずに血管を突き破ってしまうことになります.
逆血の勢いがしっかりとある方向を見極めて,針を進めましょう.
“小児“ は一括りではない|年齢ごとのルート確保のポイント
一口に“小児“といっても,生まれたての新生児から思春期までありますし,医療的ケア児もいます.
先天性心疾患の子の血管は蛇行していることもあります.
各々で有効な作戦が違うので,覚えておきましょう.
新生児のルート確保
新生児では皮下組織が非常に薄いので,血管はよく見えます.
血管ライトを使えば前腕の血管も追えますし,動脈までわかります(拍動が見える).
逆に非常に浅いところにあるので,普段以上に針を寝かせて進めましょう.
目視で針先がまだ入り切っていないくらいで逆血がくるイメージです.
乳児のルート確保
乳児では,むちむちとしていることが多く,血管が見えにくいです.
血管ライトで見えた場合も,手のむちむちに合わせて血管が上下にカーブしていることが多く,逆血をよくみながら針を進める必要があります.
幼児のルート確保
幼児では比較的血管も発達しており,まっすぐな血管が多いです.
但し,“魔のグリグリ“ が最も強いのもこの時期です.
説明の理解が可能な児では,プレパレーションを含めて事前の準備をしっかりとしておき,固定も意識してしっかりとするのが良いでしょう.
人手が一番いる時期なので,可能なら穿刺する人以外に抑える人と補助の人の3人以上で行うのが良いでしょう.
エムラパッチやエムラクリームなどの表面麻酔をしておきながら,タブレットの動画やおもちゃを見せて注意を逸らしておくと,穿刺直後のグリグリを抑えることができます.
小学生〜高校生のルート確保
ほとんど大人と一緒です.
事前にしっかりと説明をして,心の準備が必要な子ではある程度本人のタイミングを待ってあげましょう.
医療的ケア児のルート確保
医療的ケア児は,幼少期からたくさん点滴されていることが多く,他の小児で頻用される手背の血管がすぐに潰れてしまっていることも多いです.
血管ライトを併用しながら前腕の血管を探してみたり,指先の血管を穿刺することもあります.
寝たきりの子では,血管自体が非常に細いのですが,体動も少ないことも多いので,逆血の量をしっかりとみながら,場合によっては貫かないように針を回転させて進めていきましょう.
保護者の方に「前の時にはどのあたりでルートとってました?」と聞いてみると比較的条件のよいところを教えてくれることが多いですが…
いざとなった時|いつでもあるはずの血管を狙う
解剖学的にあるはずの静脈を狙う
- 手根部の第4中手骨の基部から尺骨の茎状突起の橈骨側
- 足関節の内顆の内側
の2箇所はどんな子でも血管のある場所です.
特に足関節の内顆は普段あまり使用しない場所なので,血管が残っている可能性が高いです.
また,下肢の伏在静脈も目視可能な静脈です.静脈弁が多くカニュレーションがしにくいですが,緊急避難的に使用するのにはいいかもしれません.
痙攣重積やショックの時,肘の正中皮静脈を狙うのと合わせてこれらの場所を狙ってみるのが良いでしょう.
伝家の宝刀 ”エコーガイド下の末梢静脈確保”
上記の工夫をしてもどうしても難しい場合,あるいは血管ライトでも透過できなかったり,肥満などの理由でそもそもTryする気も起きないような状況では,闇雲に刺しまくってもあまり上手くいくことはないでしょう.
そういった場合には,手足を温め直して時間をあけて再チャレンジするか,エコーガイド下穿刺を試してみましょう.
エコーガイド下穿刺は,CVやPICCの時のようにエコーで留置針の先端をみながら穿刺する方法で,さわれないし,血管ライトでも透かせない前腕のやや深めな静脈を狙うことができます.
また,そういった血管は比較的太めな血管が多いので,成功率も高いです.
エコーガイド下穿刺については,別記事を書きましたが,簡単なコツをいくつか紹介します.
ゼリーをたっぷりと使う
CVやPICCと比較して,エコーガイド下で狙う末梢静脈は比較的浅く,静脈径も小さいです.そのため,エコーのプローべを押し付けると容易に虚脱してしまいます.
ゼリーをこんもりするくらいたっぷりと付けてエコーを当てましょう.
穿刺後に拭くのがちょっと大変ですけどね…
手元は見ない(ように練習する)
エコーガイド下の上手な先生から教わったことは,“手元は見ない“です.
逆血を見たくなってしまいますが,エコー画面と手元を往復させると大体はプローべがずれてしまったり,針先がずれてしまったりして上手くいかないことが多いです.一番初めに表皮に刺入する時以降は画面の身を注視して穿刺する練習をしましょう.
手元をみないのはすごい難しい感じがします,と指導医の先生に言ったら
「エコーでは,体の中にある “針先” を見ているわけなので,血管内に入っているという間接的な証拠である逆血はみる必要がないでしょう.」
とのお言葉でした.
ごもっとも…ですが,その域になるには研鑽が必要です.
エコーガイド下穿刺に手慣れてしまえば,かなり正確な方法です.エコーの準備が多少めんどくさいところはありますが,これからの世代の小児科医としては,しっかりと手技を獲得しましょう.
まとめ
ルート確保は,小児科医の基本であり,奥義でもあります.
頭で理論的に最も適切で効率的な方法を考えながら,日々の手技を振り返り研鑽を続けましょう.
