IgG index と QAlb
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IgG indexとQAlbの自動計算
IgG indexの計算の際には,血清と髄液でアルブミンの単位が異なることに注意してください.
IgG index 計算機
IgG indexとQAlb
髄液中のIgGとアルブミン
髄液と血液の間には血液脳関門(Blood Brain Barrier:BBB)が存在します.
血液脳関門(BBB)には血管内皮細胞同士のタイトジャンクション・周皮細胞・アストロサイトなど様々な機構が関与し,物理的にあるいは能動輸送等によって血中成分がそのまま中枢神経に移行することがないように調整されています.
IgGなどの免疫グロブリンは能動輸送によって積極的に中枢神経外に輸送さることもわかっていて,アルブミンの髄液/ 血液比は1:200くらいですが,IgGは1:500くらいの比率で保たれています.
髄液中の蛋白は,これらの血液脳関門(BBB)のバリア機能,輸送機能,クモ膜から血中への排泄機能によって調整され,変動します.
また,これらの蛋白は拍動による髄液流によって脊髄まで運ばれ,腰椎穿刺によって採取されるわけですが,蛋白成分は腰椎に近づくほど低下することがわかっていますので,結果の解釈上はシャントやオンマイヤリザーバー穿刺で採取した検体を参考とする場合には注意が必要です.
髄液アルブミン
通常,髄液蛋白のうちアルブミンは60~70%程度を占めており,通常 10~35 mg/dL程度です.
髄液中のアルブミン量は血液脳関門(BBB)機能と関連がありますが,年齢毎に異なることが知られており,QAlb(髄液アルブミン/血中アルブミン ×10-3 )の上限値は下記になります.
成人:「40歳未満で6.5、40〜60歳で8.0、60歳以上で9.0 ×10-3」ないし「年齢 / 25 + 8」
小児:
| 年齢 | 6 か月~5 歳 | 6~15 歳 | 16~20 歳 |
|---|---|---|---|
| QAlb(髄液Alb/血清Alb) | 2.4 ± 0.8 | 4.1 ± 1.3 | 4.1 ± 1.3 |
髄液IgG
髄液中のIgGは能動輸送によって中枢神経系がら排泄されており,髄液/血中の比率は1/500程度になります.
おおむねの基準値としては2.0 ~ 4.5 mg/dLまでになりますが,絶対値というよりは比率が評価されることが多いです.
新生児期では高めで生後6か月までに低下してきます.小児期では成人より少し低めになる可能性があるかもしれません.
| 年齢 | 髄液IgG濃度(mg/dL) | 主な文献・出典 | 備考 | 文献 |
|---|---|---|---|---|
| 新生児(0〜1か月) | 約 8〜12 mg/dL | (Livramento et al., 1985) | IgGは母体由来が主体。IgA・IgMは検出されず。 | |
| 1〜6か月 | 約 3〜6 mg/dL | (Hung et al., 1992) | 生後6か月で急速に低下。血液脳関門成熟の反映。 | |
| 6か月〜2歳 | 約 2〜4 mg/dL | (Krause & Wisser, 1975) | 健常小児109名。放射免疫拡散法による測定。 | |
| 2〜10歳 | 約 1〜3 mg/dL | (Gill & Brody, 1979) | 健常小児62名。平均0.84±1.4 mg/dL。 | |
| 10〜15歳 | 約 1〜2 mg/dL | (Rust et al., 1988) | 正常神経機能を有する253名。成人値よりやや低い。 |
IgG indexとは
髄液中のIgGが上昇した場合,2つの要因が考えられます.
ひとつは血液脳関門(BBB)の破綻によって血中のIgGが髄液中に漏出した場合,もう一つは髄液内でIgGが産生される場合です.
血液脳関門(BBB)が破綻した場合は髄液のIgGだけではなく,他の血漿成分も血中から髄液中に移行します.この中で代表的なものがアルブミンになります.つまり,アルブミンの髄液中の濃度が高い=血液脳関門(BBB)が破綻しているということを示します.血液脳関門(BBB)の破綻によって血中のIgGやアルブミンが上昇する場合は,髄液/血清アルブミンの比率と髄液/血性IgGの比率はおおむね同じように推移することになります.
一方で,血液脳関門(BBB)が破綻していない状況で髄液中で免疫反応が起きる場合は,髄液中のAlbがあまり上昇せずに髄液中のIgGが上昇します.この場合は,髄液/血清アルブミンの比率(QAlb)の推移よりも,髄液/血清IgGの比率(QIgG)の方が大きく変化します.
つまり,髄液中と血中でアルブミンとIgGの比率を比べることで,髄液でのIgG産生がどの程度起こっているのかを知る手がかりになります.
これがIgG indexです.
IgG index の定義と基準値
上記のように,IgG indexはアルブミンとで比較した場合の髄液IgGの上昇幅の大きさを捉えるものです.
計算式としては
IgG index = QIgG / QAlQ
になりますが,
QIgG = 髄液IgG/血清IgG,QAlb = 髄液Alb/血清Alb
ですので,
IgG index = (髄液IgG/血清IgG) ÷ (髄液Alb/血清Alb)
で計算できることになります.
IgG indexの基準値はおおむね 0.7~0.8
程度とされています.ちょっと古いですが小児での文献を見ると新生児ではやや高く(~1.0くらいまで),小児期での中央値は0.5前後になるようです.
IgG index = (髄液IgG/血清IgG) ÷ (髄液Alb/血清Alb)
基準値:0.7 ~ 0.8(新生児では~1.0)
IgG indexとQAlbを使った病態の推定
髄液/血液のIgGの比(QIgG)とAlbの比(QAlb)をプロットすると,下図のようになります.

Reiber2001から作成
※ 数値は概算なので,プロットを使う場合はReiberの元文献の表を使ってください
対数でプロットされていますが,血液脳関門(BBB)が破綻して血漿成分が髄液中に漏出するとアルブミン量が増加します(青網部分).この時,血中のIgGも髄液中に移行するためおおむね比例して髄液中のIgGも上昇しますが,ある一定の比率(IgG index正常上限)よりは増加しません.
中枢神経での炎症など,血液脳関門(BBB)の破綻の原因が感染や免疫応答であった場合は,アルブミンの上昇に合わせて中枢神経でのIgG産生が生じるため,IgG indexの上限を超えてIgGが髄液中に存在することになります(紫網部分).
一方で,血液脳関門(BBB)が破綻しない場合には髄液中のアルブミンは上昇しません.この状況で中枢神経での免疫応答がある場合(自己免疫性脳炎など)は,アルブミンの増加を伴わないIgG高値を呈することになります(オレンジ網部分).
その他のIgG indexに影響を与えるもの
一般にIgG indexは中枢神経系での抗体産生の結果を示すものとされますが,抗体産生以外にもIgG indexに影響を与えるものがあります.
それは,髄液流です.
ある文献では,
https://doi.org/10.1186/s12987-017-0063-4
https://doi.org/10.1016/j.jns.2003.12.002
参考文献
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