Fabry病における神経症状
この記事を作成した日:2026年1月8日
記事内容の最終更新日:2026年1月8日
Fabry病とは
Fabry病はX連鎖性のライソソーム蓄積病で,7,000~8,000人に1人くらいの有病率がある疾患ですが,最近は様々な治療がある上に早期診断が重要になるため,小児科医/小児神経科医は熟知しておいた方がいい疾患です.
Fabry病ではXq21に位置するα-ガラクトシダーゼ(GLA)をコードする遺伝子の異常により,スフィンゴ脂質が蓄積するようになり,腎臓・心臓・消化管・神経・皮膚・眼・耳などの多臓器に症状を呈します.
GLAの変異部位によって酵素活性が異なるため症状の重症度にも個人差があるほか,X染色体の不活性化により女性でも症状を呈することがあります(全体に女性の方が症状が軽い傾向があります).
| 障害臓器 | 頻度 | 症状の詳細 |
|---|---|---|
| 末梢神経 | 男性 69% / 女性 50% | 四肢末端痛(体温上昇で誘発される手や足の灼熱痛) 自律神経障害(血圧変動,消化器症状,唾液減少:齲歯) |
| 中枢神経 | 男性 20% / 女性 21% | 若年発症の脳血管障害(脳梗塞,TIA) |
| 皮膚 | 被角血管腫は小児の67% | 被角血管腫(学童期から出現.左右対称に対幹部・外陰部・大腿上腕内側・肘膝・指背の赤い隆起疹で,1mm前後から拡大していく) 発汗低下・乾皮症 |
| 眼 | 男性 62% / 女性 50% | 角膜病変(渦巻き状の角膜混濁) 白内障 結膜のソーセージ状の血管拡張・蛇行 網膜の血管拡張・蛇行 |
| 腎臓 | 男性 57% / 女性 37% | 蛋白尿(尿沈査:マルベリー小体) 腎不全 |
| 心臓 | 男性 62% / 女性 52% | びまん性心肥大,心不全 不整脈 |
| 消化器 | 下痢,腹痛 | |
| 耳 | 難聴 |
各症状の発症年齢は症状ごとに異なります.
最も最初に出現する症状は皮膚所見と四肢の疼痛です.男児で幼稚園年代頃,女児で小学校入学頃に認められることが多いです.
神経症状については記事の下で詳細を描いていますが,疼痛は神経症状の進行に合わせて症状が軽くなることが多いです.

心筋症や蛋白尿,脳梗塞は症状が顕在化するのは成人期以降になりますので,早期に発見して治療をすることで重要臓器への障害をコントロールすることが大切です.
被角血管腫に関しては見た目がわからないと気づけないと思います.Google画像検索をするとたくさん出てきますので,一度確認しておくといいと思います.一応下に画像所見のあるOpen Journalのリンクを張っておきます.
Fabry病の診断
Fabry病の診断には酵素活性を測定するのですが,治療薬を扱っている製薬会社で診断のためのキットを斡旋しています.
Fabry病に伴う神経障害
Fabry病による神経障害は主として末梢神経障害と脳血管障害に分けられます.
脳血管障害に関しては,血管内皮細胞や平滑筋への糖脂質の蓄積によって,頭蓋内小動脈の進行性の閉塞が原因で生じると考えられています.40代頃に発症する若年発症の脳梗塞が典型的で,若年脳梗塞の2~4%にFabry病が認められます.Fabry病に特異的なMRI所見はありませんが,陳旧性のラクナ梗塞や脳梗塞,白質病変,視床枕の高信号,脳底動脈の拡張などの報告があります.
Fabry病の末梢神経障害は,小径繊維を主に侵します.
薄く髄鞘化されているAδ繊維(刺すような痛みや冷たさの知覚)や無髄のC繊維(ゆっくりした痛み,温かさ,熱さの知覚)が障害され,走行が長いほど症状が強くでるため,手や足の先に疼痛を来します.
Aβ繊維(振動覚・触覚)は病気が進行した段階で出現するため初期では異常がありません.また,初期には疼痛症状だけで他覚所見に乏しい場合もありますし,小径繊維の障害は神経伝導速度検査で検出困難ですので注意が必要です.
Fabry病の痛み
痛みの特徴
Fabry病の痛みは,
- 四肢末端の指先を中心(指先,手掌,つま先,足底)に,時に肘や膝当たりまで
- 強さはまちまち
- 焼け付くような痛み
- ジンジンするような異常感覚やしびれ
- 肘の尺骨神経を強打したときのような電撃痛
- 持続時間は1時間程度~数日まで
- 体温の上昇(感染症や入浴)で誘発される.時に手足が冷えたときに強く感じることもある
- 夏が苦手で,クーラーの効いた部屋から出られない人も
- 冬に温かいところから冷たいところに移動すると症状が出る
- 運動で増悪する
といった特徴があります.

時に腹痛や関節・歯など他の部分にも疼痛をきたすこともある他,全身の激しい疼痛発作(疼痛クリーゼ)を生じることもあります.
軽い症状であれば,しばしば心因性や成長痛として片付けられてしまうため注意が必要です.
Fabry病で最も早期に出現する症状ですが,
- 障害されるのが小径のAδ繊維・C繊維であり神経伝導速度検査で異常が見つからない
- 疼痛発作の発症時には他の神経学的異常所見がないことも多い
点に注意が必要です.
Fabry病などの小径繊維の障害がある場合,温熱・冷感刺激で疼痛が誘発されます.
アイスバケツテストは,患者が脚または腕を氷水(大腿部中央または肘まで)に最大 30 秒間浸けます.正常な被験者は寒冷刺激に耐えられますが,Fabry病の患者では15~20秒以内に激しい灼熱痛が出現します.
小児では,そもそも氷水に長い時間つけられないかもしれませんし,疼痛の誘発はかわいそうではありますね.
[Sakai2013][Politei2016][Medala2024]
Fabry病の痛みの経過
疼痛はFabry病の症状の中で最も早期に認めることが多く,発汗障害と四肢の疼痛は速いと2~4歳前後から(女性では6~7歳頃から)認めます.
徐々に増悪しますが,思春期や20代頃をピークとして徐々に軽快することが多いです.これは,症状が改善したというよりも神経障害が進んだ結果であると考えられており,酵素補充療法で疼痛が再燃することもあるようです.
また,腎不全にいたると尿毒症性多発神経障害として神経障害性疼痛が生じることもあります.
Fabry病の疼痛の鑑別疾患
肢端紅痛症
発赤や腫脹を伴う重度の疼痛が,四肢の片側に誘発される疾患です.
その他の感覚ニューロパチー
糖尿病性,遺伝性,自己免疫性の感覚ニューロパチーでも,四肢末端の灼熱痛を呈することがあります.
鑑別点は,皮膚所見や腎機能障害などFabry病のその他の特徴の有無になります.
治療・対応
寒暖差が緩やかになるような生活指導を行います.
薬物療法としては,通常のアセトアミノフェンなどの治療は有効ではありますが,効果が乏しいです.発熱時に解熱させることで症状が緩和されることもあります.
神経因性疼痛の治療として,カルバマゼピンやガバペンチンが使用されます.その他,フェニトインやラモトリギンなどの抗てんかん薬,アミトリプチリン(トリプタノール®)なども使用されることがあります.
疼痛の対応については,使用薬剤の所感や用量も含めてレビュー文献[Politei2016]にまとまっています.
[Sakai2013][Medala2024][Politei2016]
参考文献
- 久保 亨. Fabry病の診断と治療. 日本臨床. 2023;81(11):1698-1703.
- 猪原 匡史. Fabry病の診断と治療. 神経治療学. 2019;36(3):140-144.
- 酒井 規夫. 【小児の痛みについて考える】小児神経と痛み ファブリー病の疼痛. 小児科臨床. 2013;66(12):2503-2505.
- Medala VK, Üçeyler N. Neuropathy and pain in Fabry disease. Rare Dis Orphan Drugs J. 2024;3:20. http://dx.doi.org/10.20517/rdodj.2024.13
- Politei JM, Bouhassira D, Germain DP, et al. Pain in Fabry disease: Practical recommendations for diagnosis and treatment. CNS Neurosci Ther. 2016;22(7):568-576.
