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脳波の読み方|脳波の装着方法と脳波判読のための基本設定

脳波の装着方法と脳波判読のための基本設定

このページについて

このページでは脳波判読上の用語や小児脳波読影に必要な知識のうちで覚えきれないものをまとめています.

網羅的に記載はしていませんので,波形の判読などを学びたい人は「おすすめ書籍(脳波)」を読んでみてください.

脳波判読のための基本設定のまとめ

フィルター設定
・高周波フィルター:50 – 60 Hz
・時定数:0.1 ~ 0.3

基準電極
・心電図が目立てば aAV

目次

脳波の装着の仕方(脳波電極の貼り方)

通常の脳波の貼り方

まずは脳波の装着から.

脳波の電極は,スクラブ材で皮脂を取り除いた後に,ペーストを盛った電極皿を頭皮に押し付け,その上から四角く切ったガーゼ片やテープで頭皮に固定します.

脳波の装着位置は,”10-20法” で装着することが一般的です.

10-20法は,頭の半分までを10:20:20の割合で分割して電極を配置する方法です.以下に具体的な手順を記載します.

下の図は頭の左側面を描いた図です.

10-20法での脳波の装着の上からみた図

まず始めに,両側の外耳孔同士を頭頂を経由して結んだ線の真ん中をCzとします.

次に外耳孔からCzまでの間を10:20:20に分割するように,T3C3を配置します.

次は,鼻根部からCzまで,後頭結節からCzまでの間も同様に10:20:20に分割し,Czよりの部分にFzPzを配置します.

下図は今度は頭の上から見た図で,左側が左で,右側が右です.

10-20法での脳波の装着の上からみた図

T3のライン(外耳孔とCzを10:20:20に分けた10のライン)で,正中線から10:20:20に分割します.前からFp1,F7,T3の順になるように配置しましょう.後ろ側も同様にして,O1,T5を配置します.

最後に,F7とFz(およびFp1とC3)から等距離になるようにF3を装着し,P3も同じように配置します.

耳に耳朶電極(A1)を装着して終了です.反対側も同様に装着しましょう.

耳朶電極(A1 / A2)と前頭極部(Fp1 / Fp2)は長時間装着する場合は取れやすいので,テープの方がよいと思います.

電極位置の名称
電極名称
Fp1/2前頭極部
Fz前頭中心部
F3/4側頭前部
T3/4側頭中部
T5/6側頭後部
C3/4中心部
Cz中心正中部
P3/4頭頂部
Pz頭頂中心部
O1/2後頭部

長時間取る場合の固定の工夫

長時間脳波を取る場合,取れてしまっても元も子もないためしっかりと固定しますが,一方で褥瘡が発生するリスクも上がります.

私は,てんかんの発作間欠気・発作時脳波の付録に載っている,静岡てんかん神経・医療センターの脳波の貼り方を参考に,脳波を固定しています.

  • 電極のペーストを厚盛にする
  • 電極装着時に,電極コードがPzの方向に向くように貼る向きを調整する
  • 弾性包帯では張力が強くなると収縮力でずれてきやすいので,あまり力を入れて巻かないようにする
  • 顎の下を巻いた後はひと巻きごとに横をテープで止めていく(弾性続けて巻くと喉がしまってしまう)
    きつすぎたら顎下で体に違い側に切れ込みをいれるといい
  • ずれないように,巻いている途中で時々テープで固定する
    体動が激しい場合は,包帯と頬っぺたの外側をテープで固定させてもらう
  • 包帯の固定中にすぐに使えるように,脳波を装着しだす前に固定用のテープをたくさん切っておく

を意識するとずれにくく,結果として患者さんの負担が少ないと思います.

その他,d追加の工夫としては

  • おでこに貼るテープに切り込みを入れて,コード側が強く皮膚に圧着されないようにする
  • ギプス用下巻き包帯「ブルーラップ」を,包帯でぐるぐる巻きにする前に巻く

をしていますが,ブルーラップは褥瘡予防にかなり効果があるため,検討してみてください.

ICUでの持続評価のセッティング

日々忙しいPICU環境で10-20法で持続脳波を測定するのはかなり大変です.

Neuro ICUであれば頑張れるかもしれませんが,たとえばECMOが回っている中で合わせて持続脳波を行う場合,コードを絡まらせないようにするだけでも一苦労ですし,大量にあるシリンジの入れ替えや吸引,心電図監視,褥瘡予防,ECMO内の血栓評価 etc…やることが多すぎて,脳波電極が外れていてもなかなか付け直す暇さえなかなかありません.

また,完全な不動化を行っている中で頭皮の浮腫も強いため,電極が増えられば増えるだけ褥瘡形成のリスクも上がってしまいます.

そこで,持続脳波での検出力と脳波の維持のバランスをとるために,電極の数を減らす方法を取ることもあります.下記の図のように,Fp1/2,T3/4,C3/4,O1/2,A1/2とアースで11電極です.

小児のてんかん患者ででこのように電極を減らした場合のデータとしては,10-20法と比べて感度が少し低下する(0.76 vs 0.65)ものの特異度は保たれる(0.97 vs 0.96)という報告があります.

cf 10-10法

フィルターの種類と設定

脳波判読の際に設定・調整できる項目

この画像は日本光電の脳波判読ソフトの一部です.

日本光電の脳波計の設定可能画面

設定できる項目として,ソフトによって表示名称は異なりますが

  • Sens(感度)
  • TC(時定数)
  • HF(高周波フィルター)
  • Pat(モンタージュ)
  • Ref(基準電極)
  • User(表示幅,画像ではユーザー設定)
  • 交流フィルター

があり,何を評価したいのか(てんかん発射なのか,背景波なのか)やアーチファクトの入り方など,様々な状況でこれらの設定を切り替えながら判読していきます.

以下にポイントをまとめました.

感度

高周波フィルター

速い周波数の脳波をどこまで正確に記録するかのフィルターです.High-Cut filterということもあります.
フィルター感度以上の周波数は減衰します.

通常,50 Hz−120 Hzの間で使用します

注意として,15 Hzや30 Hzなど極端なフィルターをかけると,筋電図でも律動波に見えてしまうので,極端なフィルターをかけた場合はいったんフィルターを外してみて,アーチファクトでないか確認しましょう.

低周波フィルター(時定数:TC)

時定数は遅い周波数をどの程度表示するかの設定です.”Low-Cut フィルター”ということもあります.
0.001から2秒くらいまで設定可能ですが,デフォルトでは0.3秒になっています.

TC 0.3 では 0.5 Hz程度まで,TC 0.1では1.6 Hzより遅い周波数の波形が減衰します.

通常の判読では0.3を主としますが,体動が多かったり発汗のアーチファクトが目立つ場合は0.1でもおおむね問題ありません.

ただし,TC 0.1にすると1.5 Hz未満の波形に影響して徐波の形もかなり変形してしまいますので,ICUでの急性脳症の評価中など徐波の評価が必要な場合にはTC 0.3で判読します.

時定数(Time Constance: TC)

時定数は入力された矩形波電位の振幅が37%まで減衰するのに要する時間を表しています.

TC = 1/(2π × 低域遮断周波数), 低域遮断周波数=低周波フィルター感度 

の関係となっています.

そのため,フィルターとしての時定数は実際上は,

TC 0.3:0.5 Hz
TC 0.1:1.6 Hz
(おおむね1.5 Hzで覚えておくといいです)

の低周波フィルターと考えてよいです.1.6Hz未満をカットすると思うと影響は大きいですね.

交流フィルターの設定

交流電源からのアーチファクトを除去するためのフィルターが脳波計には設定されています.

50 Hz/ 60 Hzの周波数の波形をフィルタリングします.基本的にOnにした方がいいです.d

単極導出と双極導出とモンタージュの設定

単極導出と双極導出

基準となる電極を基準電極(耳朶電極)として,各電極との電位をとったものが,単極導出です.上図のように,耳朶電極(A)の部分の電位が0とすると,おおむね各電極での電位をそのまま反映したような波形になります.

この場合,てんかん発射の波形は通常は上向き(陰性)になり,焦点(F)で最大値になり,てんかん焦点から遠ざかるほど波形は小さくなります.

基準電極以外の記録電極2つを選んでその電極間の電位の差を表示したものが双極導出になります.

上図のように,てんかん発射の波形は,焦点(F)をはさんで逆転します(phase reversal)

双極導出では2点間の電極の差分を表示するため,脳波全体に同じような影響を与える波形は除去されやすくなります.つまり,局所の異常を拾いやすくなるため,てんかん焦点を検索するのに有用です.縦繋ぎの双極導出(いわゆるDoube-banana)は左右半球での比較がしやすいため,てんかん患者さんの読影,病歴や画像から特定の焦点を疑う場合には効率的にてんかん性放電を検出できます.

phase reversalのパターン

phase reversal(フェイズ・リバーザル)はいくつかのパターンがあります.

隣り合った電極でリバーザルがある場合には気づきやすいですが,広めに電位変化がありChainのうちの2つの電極で電位が等しい場合には,電極をスキップしてリバーザル認められることになります.こういったリバーザルは初学者には気づきにくいため注意が必要です.

モンタージュ

モンタージュはフランス語で「組み立て」や「編集」を意味します.もともとは,映画で複数のカットを組み合わせて表現する技法に使われました.一般的には犯罪捜査の時に顔のパーツを組み合わせて似顔絵を描く方法で有名ですね.

脳波では,1画面にどの誘導を表示するかの組み合わせや並べ方のことをいい,判別しやすいように左右で並べたり,内側外側でならべたり,様々なモンタージュがあり,これは施設(流派?)によって若干違ったものが採用されていたりします.

脳波のモンタージュの図説

一般的には,10-20法をもとにした
① 単極導出
② 縦繋ぎの双極導出
③ 横繋ぎの双極導出

の3つのモンタージュを基本として,目的に応じて追加の電極をくわえたもの(側頭葉てんかんを疑う場合のT1/T2を加えたモンタージュなど)を使うことになります.

単極導出,横繋ぎの双極導出,縦繋ぎn双極導出のイラスト

紙脳波では施設ごとに決まっているモンタージュが脳波の袋の表面に印刷されていると思います.

デジタル脳波では今自分がどのモンタージュで見ているかは画面上に表示されますが,目的に応じて一つの波形を様々なモンタージュに切り替えて判読できるため大変便利です.

施設ごとに様々なモンタージュを考え使用しているかと思いますが,標準化としてAmerican Clinical Neurophysiology Society(ACNS)から標準のモンタージュが提案されていますので紹介しておきます.

ACNSの標準モンタージュ
単極導出のモンタージュの波形の並び
ACNSで標準化された単極導出のモンタージュ
双極導出のモンタージュの波形の並び
ACNSで標準化された縦繋ぎの双極導出のモンタージュ
横繋ぎ双極導出のモンタージュの波形の並び
ACNSで標準化された横繋ぎの双極導出のモンタージュ

基準電極の取り方

システムリファレンス

発生源導出法(SD)

Laplacian法(ラプラシアン導出)

日本光電の基準電極では発生源導出法(Source derivation:SD).周囲の電極の平均を基準にすることで,周囲の電極と比べて当該電極での電位変化を鋭敏にとらえることができる.

表示時間

標準では紙脳波に準じて,3cmが1秒になっていますが,一画面の表示時間を調整することができます.

動性デルタ波などの周波数の遅い波形は一画面の表示時間を長くする(1.5 cm = 1秒,など)ことで認識しやすくなります

一方で,一画面の表示時間を短くする(6 cm =1 秒,など)すると,左右でどちらかが先行しているかの判別がしやすくなったり,ビデオ再生と合わせて脳波と筋電図や動作の対応が確認しやすくなります.

参考文献

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