サイト利用前に必ずこちらから注意事項を確認ください.

髄液Filmarray®検査の適応,検査制度と注意点

髄液Filmarray®

この記事を作成した日:2025年10月16日
記事内容の最終更新日:2025年10月16日

<この記事のまとめ>

検体は”冷蔵”で保存すること

HSV-1/2はPCRと同様に初期の偽陰性に注意する

chromosomally integrated HHV-6などの偽陽性にも注意する

目次

Filmarray®髄膜炎・脳炎パネル(Filmarray®Meningitis/Encephalitis panel; FMAE-p)

FAME-pは2022年10月から保険適応となった検査で,髄膜炎や脳炎の起因細菌・ウイルス・真菌を14種類も評価できる検査です.検査の時間も1~2時間程度で,培養やPCR検査を待つことに比べて実臨床での有用性はとても高く,日ごろお世話になっています.

Filmarray®を使うことによって,原因検索だけでなく,アシクロビルの使用量の低下など患者へのメリットも大きいです.

対象となる細菌・ウイルス・細菌で有病率の高い髄膜炎・脳炎の起因菌はかなり網羅(90%以上)されています.

Filmarray®で検査可能な14種類の微生物

Escherichia coli K1
Haemophilus influenzae
Listeria monocytogenes
Neisseria meningitidis
Streptococcus agalactiae
Streptococcus pneumoniae

Cytomegalovirus
Enterovirus
Herpes simplex virus 1
Herpes simplex virus 2
Human herpesvirus 6
Human parechovirus
Varicella zoster virus
Cryptococcus neoformans/gatti

システマティックレビューによるとこの検査は感度 90%(95%CI 86-93%)感度特異度 97%(95% CI 94-99%)でかなり精度の高い検査です.

肺炎球菌やG群溶連菌では擬陽性率が比較的高く(それぞれ11.4%, 4%)であり,単純ヘルペスウイルスやエンテロウイルス,クリプトコッカスでは偽陰性率が高めであることが報告されていますが,陰性予測値はHSV-1/2で99.7%であり良好でした.

ただ,このReviewへのレターとして,陰性予測値(NPV)を計算するために使用された真陰性の数が正確ではない可能性が指摘されているため,ヘルペス感染の除外として結果を用いる場合には注意が必要です

Filmarray®でのヘルペスウイルスの検出限界は,

  • HSV-1:1.53 × 103 コピー/mL
  • HSV-2:1.29 × 103 コピー/mL

ですが,もともとヘルペスウイルスは初期でPCR陰性であったとしても後に陽性となる(成人で1割くらい)ことが知られているウイルスあるため,PCRであろうがFilmarray®であろうが,初期の検体の解釈には注意が必要です.

偽陽性では治療判断に問題になることは少ないと思いますが,偽陰性の場合には注意が必要になるため,臨床的に脳炎・髄膜炎を強く疑う状況では髄液Filmarray®の結果のみで治療判断を行わず,他の髄液検査や画像検査と組みあわえて判断する慎重さも大切になります.

必要検体量と診療報酬点数

髄液 0.2 ml(冷蔵)

診療点数:17,000 点

使用上の注意

検体提出時の注意点

通常のPCR検査では検体は凍結して搬送します.一方でFilmarray®の検査では検体を凍結してしまうと精度が落ちてしまい結果が参考値になっていまいます

自施設で検査する場合は細菌検査室で行ってもらえると思いますし,当直帯で検査に詳しくない技師さんが受け取ったとしても培養と合わせてFilmarrayを提出すれば凍結されていない検体が残っているものと思います.

自施設でFilmarray®を実施できず,脳炎・脳症を疑って転院搬送を考慮している場合には,0.5 ml程度でいいので”冷蔵”で検体を保存しておくことを勧めます.

HHV-6の潜伏感染とchromosomally integrated HHV-6(iciHHV-6)

髄液Filmarray®でHHV-6が検出された場合,それをそのまま今回の症状の起因ウイルスと考えていいかというと,ちょっと注意が必要です.

HHV-6は感染後に単核球に潜伏感染をします.白血病治療などではこの潜伏感染したウイルスの再活性化が問題になるわけですが,髄液のFilmarray®でもこの潜伏感染しているHHV-6を検出してしまう可能性があります.この場合,HHV-6は目の前の症状とは無関係です.

また,HHV-6は感染後に宿主染色体内に組み込まれることがあります(chromosomally integrated HHV-6; iciHHV-6)

ici-HHV-6はHHV-6のウイルスゲノムが人染色体(日本人では22番染色体長腕が多い)のテロメア領域に挿入されてしまうもので,日本人の0.6%で検出されます.ヒト染色体にウイルスゲノムが組み込まれているため生殖細胞系を含む全細胞で検出され,子孫にも伝達されます.この場合でも同様にFilmarray®は擬陽性になっていまいます.

髄液Filmarray®でのHHV-6陽性のうち半数がiciHHV-6であったという未報告データもあるようですのでかなり注意が必要です.病因の特定という意味では,PCRで追加確認をした方がいいかもしれません.保険適応はないですがBML等の検査会社でも検査可能である他,時間はかかりますが保健所で検査してもらうこともできると思います.

参考文献

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次